TOKYO ASIA MUSIC MARKET (TAM)のCHINESE DAYに行ってきた。
2004年10月22日金曜日午後6時から、shibuya eggmanにて。
もともとこのTAMのイベントは半分音楽業界人向けみたいなものが一般にも公開されるという流れのようだが、中国ロック(揺滾)ファンからの情報で行くことにしたのだった。お客さんは半分くらいが「関係者」みたいな感じで、純粋な揺滾ファンは多少肩身が狭かったかも。早めに着いたので前列の椅子の一つに陣取ったが、場内の画面ではなぜかパーミーやブライオニーといったタイ・ポップスのPVが音なしで流れている。
10分ほど遅れてステージが始まった。
今回の出演者は4組。3組は中国からだが、最初の1組だけは特別にシンガポールから、あの――
アンドリュー・ラム&New Asia。

女子十二楽坊の「無詞(No Words)」(原題は「鵑啼」)、「魅力音楽会」収録の「預知」(原題は「蠢動」)と「塞琳娜之歌」の3曲の作曲者で、ちょっとばかし著作権騒動にもなったあの人、と言えば十二楽坊ファンにはお馴染みだろうか。因縁の出会いというか何というか。司会の人も「ラム氏の曲で一番ヒットしたのは女子十二楽坊で」と言ってたが、この3曲がいい曲であるからこそ楽坊も採用したのだ。過去のトラブルのことは置いておいて、純粋に優れたミュージシャンの演奏を鑑賞することにする。
今回はラム氏に加えてNew Asiaという3人のグループがパーカッションや三線(!)で参加。イージーリスニング的なメロディ、日本でいえば坂本教授の路線だろうか。1曲目は「預知」の原曲「蠢動」だった……と思う。合計5~6曲演奏。沖縄の楽器「三線(さんしん)」だけでなく、長い筒の笛など少し変わった楽器も登場した。全部で一体いくつの楽器を使ってるんだ?と思うくらい、こまめに数々の楽器を操っていく。もっとも、あまりにも細々と楽器を使い分けるので、多少実験的な要素もあるように感じた。CDで聞いていれば音としては調和しているのだろうけど、ライブ演奏を見ているとちょっとめまぐるしく、気になってしまう(いや、楽しいといえば楽しいのだが)。
演奏全体は高度に組み立てられていた。聞いていて心地よく、脳裏にゆったりとした光景が浮かぶような雰囲気だ。楽坊が採用したのも当然と思える調和の取れた音楽。
アンドリュー・ラム氏の曲は、今後多くの人に受け入れられていくだろう。
さて、次は広州からのバンド「与非門」である。

女性ボーカル蒋凡の加入以後、テクノ色の強いポップスバンドとして成長、機材メーカーのKORGにも認められてイメージキャラクターに選ばれたという。
蒋凡は左手の5本の指に赤い筒みたいなのをはめて、指を長~く見せるスタイルで登場。面白かったのがプログラミング&DJ担当の三少で、左右に電球のついた眼鏡をかけて、少し踊りながら電子音を操る。全体にテクノ/ハウス系ミュージックだが、蒋凡の歌声はチャイナ・ポップの実力派歌手系統の声で、透明感がある。高音の伸び、安定した心地よい声色は安心して聴ける。中国語、英語の歌詞があるが、英語の発音もきれいだ。というより、ジャパニーズイングリッシュよりはずっといい。
チャイナテクノというのは珍しく、非常に興味深い。ただ、懸念もある。蒋凡の歌声は素晴らしいのだが、それだけに頼ってポップ系に傾倒するならば、他のチャイナ・ポップの中に埋もれてしまうのではないだろうか。テクノ/ハウス系を全面に押し出した新しいチャイナテクノwithボーカル路線を発展させることができれば、かなり面白くなるのではないかと思う。
さて、三組目は北京からの実力派バンド、二手玫瑰。
実のところ、今日の個人的な関心はこの二手玫瑰(アルショウメイグイ)であったが、shibuya eggmanで一番観客が多かったのもこの玫瑰の演奏時であった(つーか玫瑰終わったからといってさっと引いていくのはどうなんですか?……)。


女子十二楽坊ファンにとっては、「琵琶の張爽さんが大ファンで、飛び入り参加して琵琶を共演したこともある北京のビジュアル系バンド」と言った方がわかりやすいだろうか。グループ名は「中古のバラ」という意味だが、「中古になり得るはずのないバラの花を、もう一度キレイに生けてあげよう=忘れかけられている中国の伝統文化をもう一度見直そう、と言うネーミング」だという。今回はメンバーが一部変更となってから初の公演となるらしい。
東北の農民出身のヴォーカル梁龍は伝統芸能風の泥臭い女装――というとイロモノ・ヴィジュアル系のようだが、なかなかどうして、実際に聞いてみると全然違う。その表現力は圧倒的だ。メッセージ性の強い歌詞(まあ聞いてもまだ意味はわからんのだけど)、説得力ある歌い方、緩急のタイミングを心得たパフォーマンスは「見せ場」を知っている。半分は業界人で埋められていたと思われるshibuya eggmanはショーケース的なイメージも強かったが、玫瑰の演奏中はまぎれもなくライブハウスの熱気に包まれていた。最後にはステージからTシャツを投げ入れ、サービス精神旺盛なところも見せつけた。
最初は爆風スランプのイメージかと思ったりもしたが、途中でもっとぴったりくるアーチストを思い出した。キヨシロー――忌野清志郎だ。メッセージ性、表現力、パフォーマンス……どれをとっても抜群の冴えを見せてくれる梁龍を「北京のキヨシロー」と呼ばせてもらいたい。
バックでは民族楽器担当の呉沢昆がチャルメラとか葫蘆絲を奏で、それが電子楽器に呑み込まれることなく、さらに迫力を高める。途中の一曲で、最初に登場したNew Asiaのジェシカさんが三線を持って参加。民族楽器とエレキの融合をすんなりと成し遂げるのもこのバンドの特徴だろう。
時には激しく、ときには淡々と、シニカルな笑いを浮かべながら歌いあげる二手玫瑰の存在感は、この日の優れた出演バンドの中でも特に群を抜いていたと思う。今のスタイルを保ちながら、世界を視野に収めた曲を作り出すなら、かなりの存在感をもって世界的に成功することも可能ではないだろうか。
演奏後には花束を渡す女性ファンの姿もあった。
会場で配布された二手玫瑰自作のパンフによると、曲目は以下のとおり。
さて、最後のステージは、中国アンダーグラウンドでのカリスマ、謝天笑&冷血動物という3ピースバンド。

アメリカのストリートやライブハウスで鍛えた筋金入りの激しいロックバンドだ。
ひたすら激しくビートをかきならし、シャウトしまくるハードロック。歌詞が中国語であることに気付かなければ、欧米のバンドと思ってしまうかもしれないほどの正統派アングラバンドだ。
最初の数曲では「実力派インディーズバンド」といった感じで聞いていたのだが、やがて雰囲気が変わり始めた。チューニングが狂ったエレキを交換し、水を飲む。その直後、謝天笑は自分の頭にミネラルウォーターを振りかけた。そこから舞台の雰囲気は急激に変わった。まさにアングラ。絶叫し、狂ったように音を叩きつける。弦が一本切れて弾ける。勢いに乗ったヴォーカルとベースがズボンを下げ始める(あんたの尻は見たくない。笑)。
そして、最後には謝天笑がエレキを舞台に叩きつけた! それも二度、三度……ネックが折れてしまうまで、アンプにつないだエレキギターに叫び声を上げさせる。割れたギターが舞台に転がってようやく、謝天笑&冷血動物の演奏は終わりを告げたのだった。今度は泉谷しげるか(笑)。
ひたすらハード、ひたすらアングラ。ロックバンドとしてはやはり実力がある。
だが、それは逆に言えば、あまりにも正統派すぎるがゆえにオリジナリティを感じにくいということでもあった。世界的なロックの潮流を受け継いでいるが、「冷血動物」というバンドでしか聴けないものとは何か。単に「中国人がやっているロック」というだけなら、似たようなバンドはあちこちにあるということになってしまわないだろうか。
技術的には多少荒削りなところもあるが、いずれもプロとして世界に通用する力量を持っていることは間違いない。出演4組がすべて毛色の違うバンドだったこともあって、まったく飽きる間もなく2時間のライブを楽しむことができた。
その中でも抜きんでていたのは、やはり二手玫瑰だった。ただ単に上手に歌い、上手に演奏するというだけでなく、会場の雰囲気を変え、観客を巻き込んでいくパワーは格別だと感じた。中国だけで終わらせるのはあまりにももったいない。
しかし、チャイナロックの知名度はまだまだ低いようだ。実は前売り券を買いそびれて当日券になってしまったのだが、もらったチケット(ローソンチケットの前売り券を流用)の通し番号があまりにも少ないのを見て愕然としてしまった。事前告知の問題もあるだろうし、大々的に宣伝されたものでもないから仕方ないといえば仕方ないが……。キャパ160人のライブハウスが、最も観客の多かった玫瑰の演奏時でも一杯ではなかったし、その半数以上は音楽業界関係者のようだった。中国揺滾は、まだまだこれから……というところだろうか。
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