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楽坊帝国英雄列伝 王虎将軍 疾風のレイ・イン by 朝霧


「疾風のレイ・イン」現る。
それは戦場の味方に勝利へと導く行進曲として鳴り渡り、敵軍には敗北へと誘う葬送曲として響き渡る。
楽坊軍随一の機動力を誇る騎馬隊「飛天」、その先頭にあって黄色の纓も鮮やかに丈六の白槍を振るう美姫将軍こそ王虎の称号を持つ蘭八騎第三将軍 レイ・イン、 その人である。電撃戦を持って一気に勝敗を決すること彼女に勝るものはいない、
彼女と刎頸の交わりを結ぶ詹麗君は言う。
「王虎の一撃は百万の雷火に勝る」
西域の生まれ、しかし彼女の生まれた村は彼女がまだ幼少の頃、他部族の突然の襲撃を受け、父母をはじめ多くの村人が殺され、全滅する。
以後助け出してくれた伯父と共に戦禍を逃れ、各地をさまようこと十年余、たどり着いた場所が江南の地、始新である、その時レイ・イン十二歳、太祖との邂逅を遡ること八年前のことであった。
一つの思い出を除き父母の記憶はない、それでも夢に見る父母は優しい、笑いかけてくれるし抱きしめてもくれる、顔が見えなくても充分だった。
復讐、それは幼き心に刻み込んだ彼女のたった一つの願いである。
楽坊軍に加わった頃に太祖がレイ・インに語った言葉
「貴方の憎しみはいずれ貴方自身を焼き尽くす」
本望だった、それほどまでに強く憎まなければ生きてこられなかった、あの流浪の中で、憎むことそれは生きることであった。
「私は何もしていない、私と関わりのないところで私と関係のないもの達によって敵は滅んだ。」
もたらされた知らせは彼女にとってあまりにも理不尽であり、許されないものだった。「私の今までの人生はいったい何だったのだ、」
号泣できれば良かった、彼女の心はそれすらできぬほど乱れていた、いや泣くという感情さえその時は無かったのかもしれない。
「復讐を奪われても憎しみは消えない、私は何処へ行けばいいのだ」
楽坊軍にいる理由が無くなった、最初から復讐を果たすために自分に力をつける為に加わったのであり、太祖の思いなど興味はなかったし、仲間意識もなかった、彼女たちとは目指すものが違う私は独りだった、そしてこれからも。
(詹麗君が私の手を握り黙って泣いてる、その顔がハッキリ見えない)
自分が涙を流していることに気づきとまどうレイ・イン。涙はずっと昔に枯れ果てたのに、悲しくもないし辛くもないのに。
堰を切ったように流れる涙は、かけがえのないものの本当の意味を教えてくれた。
唯一の思い出、それは彼女が作り出した幻想かもしれない、楽器を演奏する父、それに併せて歌う母そして母の腕に抱かれがら聞いている私。
例え幻想でもこの思い出が憎しみの沙漠の中で唯一のオアシスとなっていた
憎しみが彼女を生かしてきたのではない、復讐が本当に願っていたことでもない、この思い出こそ彼女の生きる糧であり、願ってやまない本当の幸せであった。
彼女は知った、いや教えてもらった、自分のあるべき姿を、歩くべき道を。何よりも一人ではないということを。
楽坊軍の旗に集う者は誰もが悲しみや苦しみの過去を背負っている。
詹麗君がレイ・インのために流した涙はただ彼女一人のものではない。
楽坊軍にいるための理由なんていらない、レイ・イン自身が楽坊軍であるのだから。
レイ・インは戦う、一日にも早く戦争を終わらす為に、矛盾していようとも「戦乱の世でさえなければ両親は死ななかった」と信じたから。
戦争が終われば適えたい夢がある、「父はなんという楽器を演奏していたのか、母が歌っていた曲はなんというのか 」探して自分も演奏し歌ってみたいのだ、そうすれば父と母の思いに近づける気がして。

全土に楽坊軍の旗が翻り、大陸から戦火が消えるその日まで
「疾風のレイ・イン」出陣

-2004/11/22
-written by 朝霧



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