探し物が見つからない。
それはバックの中にも、ポケットの中にも、化粧ポーチの中にもない。
楊松梅は考えていた。いつから無いんだろう・・・先月にはあったと思うんだけど・・
「ソンメイ、なにを探しているの?」
馬菁菁が眠そうに首をかきながら話しかけてきた。記者会見前の控え室でのこと。
「なんか・・・ないの。落としたみたいで」
「だから、何をって聞いてるの」
少し機嫌が悪いらしい。椅子に座り足首を重ね腕を組み、左斜め上目線でソンメイを見る。
「ちょっと怖いよジンジン。なにかあったんでしょ?」
「フン。シュアンが悪いんだもん」
口をとんがらせて言うジンジンを、ソンメイは可愛いと思った。そしてやっぱり見つからない。
「みんな、用意できたね。行くぞ」
王さんが先頭になり会場へ入る。カメラのフラッシュがすごい。かなり眩しいが嫌な顔はしてはいけない。
台湾の大きな音楽祭に、十二楽坊が中国代表で参加することになったことの会見だった。
「ねー聞いてよソンメイ!私は悪くないのよー」
会見が終わって張爽が近くにきた。まだ着替えてもいないのに。切り替えが早いと思った。
「うん?いったいどうしたの?」
あのねーで始まり長々と話す。しっかり聞いてあげるソンメイ。でもやっぱり見つからない・・・
「どう思う?・・ねぇ、ちゃんと聞いてた?」
ソンメイが淋しそうな顔をしてる。何かを考えてる冷たい目線で・・・
「聞いてたわよ。シュアンの心遣いが逆効果になったんでしょ」
「だって起こしちゃうと可哀そうと思ったんだもん!」
なんでも、昨日二人は同室になり、みんなで夕飯を食べに行く約束をしていたのだが、ジンジンが寝てしまったのでシュアンだけ行ったとか。目覚めたジンジンは置いてきぼりにされた事に腹を立てたらしい。
「だったらその事を本人に言えばいいじゃない。なんで私に・・・」
「だってソンメイに聞いてもらうと安心するんだもん」
その言葉にソンメイは真顔になった。
いつからだろう・・私は普通にしてるつもりなのだが、おっとり屋とか癒し系とか言われるようになった。そしてよく相談をもちかけられる。いい解決方法を言ってないのに、みんな気が楽になると言う。
自分に話したことによって、心がやすらぐのならとても嬉しい。悪い気はしない。でもなんか違う・・・
「そうだ!ソンメイもうすぐ誕生日ね!何か欲しいものある?」
無くしたものが欲しい。そう言いたかったが叶うはずがない。諦めて笑顔で言う。
「うーん、買ってくれるの?そうねぇ・・・じゃあ」
「シュアン!携帯鳴ってるよ」
「えっ、誰だろう。ごめん後で」
あ・・と言う間もなくシュアンは行ってしまった。聞いてよ、と呟くソンメイを誰も見ていなかった。
次の日、練習所に行くとみんなよそよそしく、不自然な感じだった。周建楠がそばに来る。
「おはようソンメイ・・・なんだってシュアンの味方したの?」
「まだケンカしてるのあの二人?私どっちの味方もしてないわよ」
「・・・・ジンジンが怒ってるわよ」
見るとジンジンが、完全に怒ってるという顔で揚琴の調節をしていた。
「ジンジン、おはよう・・・あの誤解しないで私・・」
「あの子に何言ったか知らないけど、私は謝らないわよ」
ソンメイの顔を見ずに話すジンジン。どうやらソンメイがシュアンに賛同したと思っているらしい。
「あの違うのよ、私本当に・・」
「さっさと練習始めたら」
やっぱり顔を見ない。ソンメイはもう話しかけるのをやめた。言いたいのに言えない・・・
ジンジンはソンメイの後姿をみて、ちょっと冷たかったかなと後悔した。でも私は悪くない。
「女同士ってささいな事でも敏感なのよ。だからすぐグループに分かれちゃうの。いくつになってもね」
ジェンナンが孫婷達の輪に入り言い聞かせる。学校でよくある事だからみんな納得してた。
「でも困ったわね。ソンメイ誕生日近いのに、こんな空気じゃ祝えないわ」
遠くでシュアンも困った顔をしていた。そんな中でも練習は始まる・・・・
お昼。ほとんどのメンバーがソンメイと同じ席についた。蒋瑾が切り出す。
「ジンジンに謝まっちゃえば?こんな空気悪いのやだよ」
「どうして私が?関係ないわよ」
「あるよー。昨日シュアンがソンメイに話して機嫌よくなったのよ。悪くないって言ったんでしょ」
違う!って言おうとしたが、周りのみんなが次々にしゃべりだす。
「ジンジン怒ると止まらないからねー」
「そうそう。逆にシュアンは気が弱いとこあるし・・・そこがかわいいんだけどね」
私は関係ない、謝る必要なんてない、そう言いたいのに言えない。しゃべらせてよ、誰か気づいて!
自分が心の中で叫んでいることを誰も気づかない。みんな笑ってる。これを見て思った。
「探し物・・・これだったのかもしれない・・・・・・」
それからというもの、ソンメイは笑わなくなった。仕事している時は別だが、終わって話しかけられても、たいした反応がない。元気がないだけではない・・・どこか淋しげな、そんな表情の毎日だった。
「なんか、変よね最近のソンメイ。大丈夫かな」
「私も思った。なんか心配で・・あの二人もまだ仲直ってないし・・・」
「どうしよう・・・明日だよ誕生日。こんなままじゃ・・・ね」
みんな集まるたびに心配した。祝ってあげるのがメンバー同士の約束だけど、これでは盛り上がらない。
「いい!とにかく、明日はケーキを用意しましょう。それで元気になるかもしれないわ」
ジェンナンがまとめる。でも本当は心の中は穏やかではなかった。
そうして誕生日当日。テレビ出演と練習。大変だったが夕方には終われた。着替えに1度家に帰り、7時に練習所の中の1部屋を借りてそこでパーティーすることになった。
「ハァ、結局あのままでこの日になっちゃったね。ソンメイ今日も元気なかったし」
雷滢が言う。早くに着いたメンバー数人はうなずいた。テーブルの上のケーキとごちそうが淋しそうだった。
すると突然、ジェンナンが勢いよくドアを開けて来た。
「ソンメイ来てる?いないわね・・・やっぱり・・・・」
「どうしたのジェンナン?」
「ソンメイが家に帰ってないの。家出る前に電話かけたらご両親がそう言ってて・・・街に出たのかも」
「ソンメイが!おめでたいこんな日に・・・みんなで探そうよ!」
「全員で行ってはだめよ。ここに来るかもしれないわ。バオとビンチュイはここに残って、あとは探しに行くの」
ジェンナンが指示をする。そうしてるとメンバーが全員そろい、2、3人に分かれて探しに出た。
シュアンとジンジンはジェンナンの命令で、自分と孫媛と4人で探すこように言われた。
街に出てお店に入ったり、市場を通り抜けたり、公園に行ったり・・・でもなかなか見つからない。
「ハァ!もうどこ行っちゃったんだろソンメイ。携帯にかけても出ないし」
「フー。大丈夫かな・・・まさか誘拐とかじゃないでしょうね」
「やめてよねー変な事言うの。だいたいジンジンが誤解してソンメイを避けたのがいけないんじゃない!」
「なに言ってるの!シュアンがベラベラしゃべって味方を増やすから悪いのよ。誰だって腹立つわよ!」
「そんなことしてないわ!話しただけだもん。すぐ誤解して・・あの時だってそうじゃない」
「いい加減にしなさい二人とも!!」
ジェンナンが怒鳴った。今まで1度も聞いたこと無い声で。
「今はソンメイを探すことが先でしょう!どっちが悪いからなんなのよ、もうどうでもいいことじゃない!」
「そのくらいにしましょう、ジェンナン」
ユエンが止める。ここに彼女が居てくれてよかった。ジェンナンは完全に冷静さを失っていた。
待ってる部屋にクンとジン、リーチュンとレイが戻ってきた。
「お帰り。いなかった?イエン達もまだ見つからないって。心配だわ・・」
「探してる時よく考えたらさ、私達ってソンメイの最近のことよく知らないよね」
「うん思った。自分のこと話してばっかりで、ソンメイの話全然聞いてなかったなって・・・悪い事したな・・」
「聞き上手だよね。だから悩みも愚痴も一方的に話してた・・・謝りたいわ、ソンメイに」
みんな無言になる。相手を失って気づく自分の罪に、ただ反省するしかなかった・・・
ソンメイは小広場にいた。
ここは朝、太極拳をする人達でにぎわう所だが、夜は街灯が2つ灯るだけの寂しい所だった。
「私・・・なにやってるんだろう・・・・どこに行っても見つからないのに・・・」
ベンチに座りバックから携帯電話を取りだした。ずっと音を消していて一切見ていなかった。
携帯を見てソンメイは驚いた。留守番電話に13件も入っていて、不在着信は20件近かった。
全部メンバーからの電話である。ソンメイは恐る恐る留守番電話の伝言を聞く。
『ジェンナンです。どこにいるの?みんなあなたが来るのを楽しみに待ってるのよ。これ聞いたら電話して』
『シュアンです。ソンメイごめんね!私達のケンカに巻き込んじゃって。もう仲直りしたよ、安心して来て』
『ジンです。あの・・ごめん。謝れなんて言って。その事気にしてたら忘れて!あなたは何も悪くないよ』
『バオです。ソンメイいつもありがとう、悩みきいてくれて。今度からはソンメイの悩みも聞くよ、約束する』
『クンです。今度一緒にお買い物行きましょ!途中お茶しながら最近の事たくさん話そうよ。絶対よ』
『ユエンです。気に悩むことがあるなら、休日にお寺参りしませんか?心を落ち着かせてお話しようね』
『ティンです。学校での苦手な人とは仲良くなったよ。ソンメイが助言してれたおかげです。ありがとう』
『ジンジンです。・・・ごめん。私が悪かったわ。シュアンとは仲直ったからもう戻ってきて。お願い』
『ビンチュイです。私はいつもソンメイと話す事で心が和んでると思っているわ。ありがとう、大好きです』
『リーチュンです。彼とは仲直りしたよ。ソンメイに全部話したから気持ちが大らかになれたと思ってます』
『イエンです。笑顔になれない時ソンメイの優しさで救われてます。これからも笑顔を絶やさずにいてね』
『レイです。今度私の楽団の演奏会に来て。素晴らしい揚琴奏者がいるわ。だから聞きにいらして』
携帯を耳にあてながらソンメイは下を向いて泣いた。最後の伝言は泣き声のジェンナンからだった。
『私よ。ソンメイお願い連絡して。私あなたがいなかったらだめになる・・必要なのよ!お願い!』
全部聞いた後、着信履歴を見てソンメイはさらに涙がでた。
1人から1人の間の時間が1分置きやら、10分置きやらバラバラなのである。つまり、みんなで計画してかけたのではなく、それぞれ個人的に心配して電話をかけていたことになる。
「私・・・バカだ・・・こんなに素敵な仲間がいるのに・・・」
ソンメイは涙をふいた。もうここにいる必要がなかった。戻ろう、みんなが待っている。
「あーいたー!ソンメイ!」
シュアンの大きな声がした。右を向くと4人が走ってきた。ソンメイは立ち上がりジェンナンに抱きつかれる。
「ソンメイ!ソンメイ・・・心配したわよ、何してたの・・・もう・・・」
ジェンナンが本気で泣いていた。ユエン達はホッとした表情を浮かべた。
「ごめん、ごめんね。みんな。ジェンナン、もう泣かないで。私は大丈夫、やっとわかったの」
「前にも聞いたけど、なにを探していたの?」
「私の話を聞いてくれる人。言いたい事を聞いてくれる人を探してた。でも、こんなに近くにいたのに・・私情けないわ。そう・・・聞いてくれる人は12人もいるのにね。バカみたい・・・ごめんなさい」
ジェンナンがソンメイの頭をなでる。
「誰だって近くにいると気づかないものよ。もう大丈夫、みんな聞いてくれるし答えてくれるわ」
「うん。でももういいの・・・こんなに大事にされてるならずっと聞き役でもいい。それが幸せなんだわ」
ソンメイに笑顔が戻った。みんなの大好きな、心を癒してくれる笑顔に。
「あ、ところでシュアンとジンジンはもう大丈夫なの?」
そう言って二人を見ると、二人は仲良く腕を組んで笑顔でべったりくっついていた。
「こっちもいつも通りになったわね。じゃあ帰りましょうか、みんなが待ってるよ」
ユエンの言葉で、5人はソンメイを囲むように歩き始めた。おしゃべりに花を咲かせながら・・・
しばらくして部屋につくと、パァーン!パァーン!とクラッカーが鳴った。
「お誕生日おめでとう!!ソンメイ!」
みんながいっせいに声をあげる。ソンメイはびっくりしながらも笑ってた。
「メインの登場ね。さぁロウソク消して」
ケーキの上の火をフーと消すソンメイ。拍手と一緒に花束を渡され、また泣きそうになった。
「みんな・・・ありがとう。ごめんね、迷惑かけて」
「いいの、いいの。私達の方こそ・・・ごめんね」
「もうみんなの声聞いたよ、ありがとう!」
ソンメイは携帯電話を顔の横で軽く振った。それでみんな電話をかけたのは自分だけじゃないと知る。
「じゃあ、みんなでごちそう食べようかー私おなか空いちゃった!」
そしておしゃべりしながら食べ始める。これだ。これが探してたものなんだ。私もう・・・・寂しくない!
「ジェンナンも落ち着いたね?さっきね、大泣きしてたのよジェンナン」
「あー言わないでよシュアン。いいもん。だってソンメイは私の恋人だもん」
キャアキャアとみんなが騒ぎ出した。ジェンナンはいたずらっ子ぽく笑う。ソンメイも笑い返した。
いつもの光景、いつもの楽坊。みんな幸せ一杯の笑顔だった。
周りに友達がいることが私の幸せ。今あなたのいる場所に、幸せはありますか?
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