「十二楽坊を研修?」
メンバー全員が首をかしげた。練習所の中の休憩室で王さんがみんなに説明していた。
「グループでデビューするかソロでデビューするか決められないのだ。なので数日の間、仕事風景などを見せてみようと思ってね。皆にくっついて行動する事になるので、何かと教えてあげて欲しい」
なるほどと全員納得し、しばらくの間仕事をしながらその子達の先生をする事になった。
楽坊は今でもオーディションをしている。そこで今回9人の子が受かったが、楽坊の一員になるのではなく、この9人グループでデビューさせるかソロにするか数日団体行動を体験させ決めるつもりらしい。
「古筝、揚琴から各1人、琵琶と笛からは2人、二胡は3人だ。すまんが世話してやってくれ」
そして1時間後、9人の女の子達と対面した。みんなかわいらしい子だと孫媛は思った。
「よろしくお願いします!」
自己紹介後、自分の楽器の担当のメンバーに挨拶した。ユエンの所に来たのは少しつり目の子だった。
「張蓉といいます。よろしくお願いします。尊敬するユエンさん会えて嬉しいです!」
ロンと言う名の彼女は背は高くないが元気で美人系の子だ。ユエンはにっこり笑って握手した。
「私をマネージャーだと思って何でも言ってくださいね」
そう言って彼女もにっこり笑ったが、どこか影のある笑い方にも見えた。
次の日から楽坊の行動は21人と多いが、みんな仲良くおしゃべりが絶えなかった。
「ユエンさんってどうしてそんなにかわいいんですかぁ?私かなわないわ。彼氏はいるんですか?」
「まぁね・・・そんなに褒めないで。ロンちゃんのほうが可愛いよ。そうだ!竹笛入れる袋あげようか」
と言って花柄の長い布袋をあげた。嬉しそうにロンは受け取る。ユエンは妹ができたみたいで嬉しかった。
しかしそれから、ユエンの周りに妙な事がおこるようになった。
「私のお財布知らない?」
ユエンはかばんの中をゴソゴソしながら隣にいた廖彬曲に聞いた。
「知らないわよ。どこかに落としたんじゃないの?」
「今日は持ち歩いてないわ。ずっとかばんに入れておいたのに・・・まさか泥棒入ったとか!」
みんな少し不安になり、一斉に財布を確認したが全員ちゃんとあった。無いのはユエンだけである。
ちょっと探してみるわ、と部屋を出ようとした時、ロンが駆け寄ってきた。
「ユエンさん!スタッフさん達の机の上にお財布ありましたよ。もう!忘れちゃだめですよ」
大きな声で財布を差し出す。ユエンは安心して中身を確認すると・・・少し足りなくなっていた。
「どうしたの?ひょっとして少し盗られたんじゃないですか?」
「ううん。さっき馴染みのスタッフさんに飲み物おごったのを忘れてたわ。ありがとうロンちゃん」
ユエンはおおらかで熱心な仏教徒であるせいか、人を疑うことをしない優しい心の持ち主だった。
そして雑誌の写真撮影が始まり、途中セット変えしてる時ユエンはゴミ箱前にいた仲宝に呼ばれた。
「ユエン、これあなたのじゃない?」
バオがゴミ箱から拾い上げたものは、昨日ロンにあげた笛入れの袋だった。ボロボロになっている。
「これ・・・私があげたやつ・・・」
「あ!バレちゃいましたねーごめんなさい実は私猫を飼っていて帰ったら爪でむしられちゃったんですよ」
猫にしては不自然な破れ方をしているとバオは思ったが、ユエンは納得し笑顔で
「そう。なら仕方ないわね。またあげるわ」
と言った。それを聞きロンは遠い目をし立ち去った。周りで見ていたメンバーは怪訝な顔をした。
「ユエン、あの子には気をつけたほうがいいわよ」
撮影の並びで横にいた張琨が言ってきた。
「まったく・・ユエンは人が良すぎるから心配よ。あのロンって子、あんまりいい子には見えないわ」
別に明るくていい子だよ、そう言うとクンはあきれたようにため息をついた。追究はしなかった。
撮影が終わり練習所へ移動。そのバスの中、ユエンは横を通ったロンに、腕にお茶をかけられた。
「ごめんなさーい。バスが急に止まるからヨロけちゃった」
ユエンの服をハンカチで拭いているロンの口元は笑ってた。みんなはあれはワザとだと見破っていた。
「もういいわよ。すぐ乾くと思うから・・・ありがとう、どうぞ席に戻って」
ユエンだけが気付かず笑顔だった。それを見たロンは、フンと鼻で笑い席に座る。バス中は静かになった。
「ユエンあの子にいじめられてない?」
バスを降りてすぐ馬菁菁に話しかけられる。ほとんどのメンバーもユエンの周りに集まった。
「何?なんでもないわよ私。後輩にいじわるされるわけないじゃない」
「でもさっきのはワザとよ。あげた物も捨てられるし。私達に挨拶もあまりしないし、いい子じゃないわ!」
「そんな事ないって・・・・人を疑ってはいけないわ。違ったらかわいそうよ」
「かわいそうなのはあなたよ!ほんとは気付いてるんでしょ?認めたくないだけなんでしょ?」
ユエンは黙る。実の所、笛入れ袋が捨てられたのはショックだった。大切に使ってた物だったから。でも疑いたくない。あの子は私にとってはかわいい妹分だもの。私が成長させてあげたいの・・・。
「私達が練習始める前に、ちょっとあなた達の演奏聞いてみたいと思うんだけど」
周建楠が楽器の音合わせ中に言う。後輩達は驚いたが、それに従い1曲楽坊の前で演奏した。
・・・きれいな笛の音。ロンちゃん上手じゃない。こんなにキレイな音を出せる人に悪い人はいないわ・・
「疑ってごめんね。私が間違ってたわ。邪鬼の心を持たず責任持ってあなたを成長させます!」
次の日、集合時間がお昼からだったので、午前中ユエンは近くのお寺に行った。
「・・・心が落ち着きました。感謝します。私は先輩としてあの子に慈悲の心を持って教えてゆきます」
それから数日、ユエンはちょくちょくロンに嫌がらせをされた。メイク道具を盗られたり、鞄の中を探られたり、時間のウソを教えられたり・・・それでもユエンはニコニコ笑っていた。決して怒らなかった。
ロンはいい気になり好き勝手な事をする。見てる周りのメンバーや後輩達は怒りで爆発寸前だった。
ある日、楽坊は外で会見と撮影をしていた。風が強かったので髪のセット直しに数分中断した時の事
「ユエンさんの彼っていい人ですねー」
「・・・?ロンちゃんどうして知ってるの?」
「さっき携帯に電話かかってましたよ。音がうるさいから私が出ちゃいました」
えっ!と着信履歴を見ると彼からだった。急いでかけ直したいが時間がない。仕方なく携帯をしまう。
「楽しい人ですね。私気が合うのかいろいろお話ししちゃった。仲良くなれそう。なーんて!アハハ」
ユエンは下唇をかんだ。今までどんな事も許せたが、恋の事だけはそうはいかない・・・悔しかった!
「あと、鞄開けた時風が吹いちゃって・・・写真かな?飛んでっちゃいましたよ」
ユエンが慌てて鞄を探ると、彼と撮った写真が無くなっていた。大事にいつも持ち歩いていた物なのに!
「もう電話出なくていいからね」
人の目があるここではそれしか言えない。ユエンは片手を強く握り上を向いた。涙がこぼれそうだった・・・
撮影が終わり移動する時、もう1人の笛奏者の後輩がユエンの所にきた。
「あの・・この写真、拾っておきましたよ。飛ばされたの見てたんで」
「あ、あぁ・・・ありがとう。よかった、諦めてたの・・・ありがとう」
「いえ。あの・・私ロンとは前から友達なんです。ユエンさんすごく我慢してるから・・・もうお教えしようと思って・・・あの子がいじわるする理由を・・・」
ウェンと言う名の彼女はバスの中でユエンの隣に座り話始めた。
「実はロンは数ヶ月前、彼氏にフラレたんです。その彼ユエンさんの熱烈なファンでして、交際中ロンはユエンさんに似た人になろうと笛を頑張ったり必死でした。それなのに彼は、ユエンさんに顔が似た女性に出会うとあっさりロンを捨てたのです。ひどいですよね」
「えっ・・・じゃあ私に近づいたのは逆恨み?」
「そうです。ロンは彼がユエンさんを好きだから自分と別れたんだと思いこんでるのです。周りが否定しても聞かなくて。私これに受かって9人の初顔合わせの時ロンがいてびっくりしました。本気なんだって」
フラレた女はなにを考えているかわからないって言うけど、本当だと思った。彼がファンだから嫌われるなんて・・・有名人の悲しい所だった。熱狂ファンがいるのは嬉しいが、別からは嫌がられるとは・・・
「そういう事ね。わかったわ、私があの子を説得するわ。ありがとう教えてくれて」
とにかく、彼を奪ったのは私じゃなくて別の人。いくら私を責めても彼は帰ってこない事を言わなくちゃ。
「ロンちゃん。演奏中はあまり目線を泳がさないほうがいいわよ」
楽坊の練習前に後輩に個人指導。ユエンはいつもより熱心に指導していた。
ロンは不審に思った。さっきの事で怒ってると思ってたのに妙に優しい。なんだこの人は。
「曲によっては体でリズムをとるようにしたらいいわ」
ユエンは教えながらもタイミングを考えていた。いつ言おう・・・どう話を持ちかけよう・・・
「はい!時間がきたので今日の練習はここまで!あとは見学してて」
ジェンナンがパンパンと手を叩き、みんなが演奏を止めるとすぐ、ロンは聞いてきた。
「ユエンさん、何を考えているんですか?それとあなたには感情がないんですか?変な人」
横で聞いてたビンチュイがムッとしたが、ユエンは冷静にロンをまっすぐ見た。
「彼を奪ったのは私じゃないわよ」
それを言った途端、ロンは大きく目を見開いた。後で密かに言うつもりだったが流れ的に・・仕方ない!
「なんでそれを・・・ハッ、ウェン!」
キッとにらんだらウェンはビンチュイにしがみついた。周りのみんなも何か始まると思い無言だった。
「ロンちゃん、別れた悲しみはわかるけどそれを誰かのせいにするのはよくないわ」
「何言ってるのよあなたが悪いのよ!あなたさえいなければ、彼はずっと私のものだった。あなたのせいよ!」
「それは違うわ。彼は私のファンでも、恋心は持っていないはずよ。でなければあなたと付き会わないわ」
「うるさい!あなたが好きだから・・・顔が似てるだけのあんな女の所に行ったんだ!許さない!」
興奮したロンは持ってた竹笛を振りかざした。ビンチュイがユエンの前に立ってかばったがユエンは断った。
「いいのよありがとう。私を叩くなら叩きなさい、気の済むまで。私は抵抗しません」
そう言って両手を合わせて目をつぶった。・・・その姿はまるで仏様のようだった。身動き1つしない彼女は、とても綺麗な人になっていた。それは光が当たったように眩しくて・・・
全員が見とれる。ロンは泣きながら笛を持った手を下げた。叩けない、この人を傷つける事は出来ない。
「あなたが彼の心を奪ったから・・・ヒグッ・・大好きだった彼の心を奪うから・・グスン・・許せなかった・・」
ユエンは目を開け、ロンを抱きしめた。彼を返してよ・・そう連呼しながらロンはユエンの胸で泣いた。
周りで見ていたメンバーも後輩も安心した表情になった。
「ハァーすごいわ・・・ユエン。まさに慈愛の天使」
「いや彼女のなら慈悲の菩薩でしょう。心の美しさにはかなわない」
みんな泣きじゃくるロンを見て、これまでの彼女の悪行を全部許したように微笑んでいた。
次の日が楽坊研修の最終日だった。ユエンとロンはすっかり仲良くなっていた。
「ユエンさん・・・私あなたに仕返しするためだけの目的でオーディション受けたんです。からっぽの演奏だったのです、私の笛は。そんな気持ちを持ってたのだから、私はもう笛を吹く資格はないと思います」
ロンの言葉にユエンは静かに首を振る。
「そんなことないわ。あなたの笛の音は素晴らしかった。止めるなんて言わないで続けたほうがいいわ」
「音楽は聞く人に安らぎをあたえる物。演奏する者の気持ちがおだやかでないなら何も伝わりません」
でも続けるべきだと説得するユエン。ロンは「考えます」とだけ言い、楽坊のみんなとさよならした。
「はぁー。なんか寂しくなるわね・・・。ところでユエン、なぜ1度もあの子を怒らなかったの?」
「あの子はずっと孤独だったの。いつも1人で遠くを見つめてて・・・それを知っていたからかしら」
そう、ロンはずっと1人行動だった。みんなの輪に入らず、話しかけもしない孤独な性格だったのだ。遠くを見つめる時は彼の事を思い出していたのかもしれない。内面はかわいそうな子でもあったのだ。
「笛、続けてほしいわ。頑張り屋だもの、またやり直せる」
それから数日後、ビンチュイがユエンに話かけた。
「ユエン!昨日ウェンちゃんから電話があったの。彼女はソロデビューするって。そしてロンちゃんは最近、笛の先生をやり始めたらしいわよ!すごいわよね」
ユエンが笑顔になった。続けて欲しいという願いが通じたんだ!よかった・・・才能ある子だから良かった。
どんな形でもいい。とにかく笛を吹くのだけはやめて欲しくなかった。ユエンは嬉しさの涙をふく。
「良かったね。ユエン頑張って教えていたものね。その心が彼女に伝わったんだよ」
バオが言うとその直後、王さんが楽屋に入ってきた。
「一体なにがあったんだ?」
「キャッ。なんです王さん、どうかしました?」
「あの9人のうち6人がデビューする事を辞退してきたぞ。お前達何か教えたのか?」
「えー・・・・ハハハ。いえ特になにも・・・・ねぇ?」
みんながひきつり笑顔になる。多分有名人になったら誰かに嫌われると思いそれが怖くなったのでしょう。
いい体験をありがとうロンちゃん。いつか一緒にお互い澄んだ心で笛を吹きましょうね。
Powered by
Movable Type 3.2-ja-2
コメントとトラックバック
[No.1] 投稿者:online poker[2006年08月09日 05:30]
online poker - online poker
Among the lucky, you are the chosen one.
トラックバック(参照元逆リンク)用URL
http://www.twelve-girls-band.info/mt/mt-tb.cgi/513
この記事へトラックバックする場合は、このトラックバック用URLを、あなたのウェブログ等の投稿ページの「トラックバック先のURL」欄に入れて更新してください。参照:3分でわかるトラックバック
コメント(ご意見・ご感想)を投稿する