私はどうしたらいいのだろう。
母の看病をしながら雷滢は考えていた。ここは地元の病院、とても静かだが少し暑い。
レイは寝ている母の汗を拭いた。母が倒れたのは2日前、腸に異常が見つかり手術が必要と言われた
「北京の大病院に移って最新の機械を使えば確実です。ただすべて高額な費用がかかりますねぇ」
明らかにレイが有名人だと気付いて言った感じだった。だから一般よりも高く取る気だろう。言われた費用はかなりの額で、無理すれば出せなくはないがその後がかなり大変な生活になるのが見えていた。
その事を王さんに伝えた時、タイミング良く日本の音楽会社が誰かをソロにしたいと進めに来ていた。
「お話は伺いましたよ雷滢さん。ご両親が大変な時だそうで・・ぜひ我々に協力させてください!」
えっ・・と言われるまま説明されたのは、日本で独弦琴奏者としてデビューし、数々の音楽会やテレビに出れば独弦琴が日本でも売れるようになる、そうなればレイの給料は今の何倍にもなるとの事だった。
「はっきり言いまして、ぜったい売れます!確実に十二楽坊ファンは買うでしょうから。人気ありますしね」
中国より日本で働いたほうがお金がいいのは知っている。いつもならすぐ断るが今は悩んだ。病気の母、その看病で働けない父、いま稼げるのは自分だけなのだ。手術代のため今は少しでもお金が必要・・
「契約金だけでもかなりの額なの。ママ、それがあれば元気になれるのよ。だから私・・・私・・・」
レイは下を向いた。そのためには楽坊を脱退しないといけないのだ。みんなと離れて日本に住むなんて。
「数日後に日本で大きなクラシック音楽会があるの。それの高額な出演料はほとんど私にくれるんだって。その代わりデビューのアピールのため1人で出て欲しいって言われたの。ママ、どうしよう?」
母は寝ているので返事はない。でも寝顔が苦しそうで、レイはポロポロ泣けてきた。私の大好きなママ!
この話はもちろん王さんにより楽坊のメンバーにも伝わった。
「そんな・・・レイちゃんのお母さんが手術なんて。そのために脱退・・・」
詹麗君がまばたきせずに言う。レイとは1番仲のいい友達だ。
「日本側がいい条件ばかり言うので、本人はかなり悩んでいる。私としては本人のためになるのならと思い抜けてもいいと言ったが。あとはみんなでどうするか決断させてやってくれ」
王さんがバタンとドアを閉め出ていくと、楽屋は静まりかえった。1人でも抜けるなんて考えられなかった。
「フゥ。仕方ないわね、条件が今のあの子にとって好都合なら、そうさせてあげましょうよ」
周建楠が前髪をかきあげて言う。泣きそうになるのをグッとこらえていた。張爽も涙目になり言う。
「レイちゃん・・・いないなんて嫌だけど・・・お母さんのためにそうするんだったら・・止められないよね・・」
みんなグスンと鼻をすすり始めた。親のために人生を変えるなら、きっと後悔はしないだろうから。永遠に会えなくなるわけじゃないのだ、楽坊が日本に来た時に、頑張ってる彼女に会えるならそれでいい。
「私達の意見としては、ソロになるのを反対しないよって事でいいわね?リーチュンも」
ジェンナンの質問にみんながうなずいた。ただ1人、リーチュンだけが反応しなかった。
「・・・リーチュン。私達の意見をあの子に伝えてくれないかしら?全員で行ったらきっと気が変わっちゃう」
それにもリーチュンは反応しない。きっとショックが大きすぎて聞こえていないのだろう。誰も話かけなかった
次の日、リーチュンはレイのいる病院についた。ここまで来るのに遠かったが時間は短く感じた。
「こんにちは、レイちゃん。疲れてない?お花持ってきたよ」
「うわぁ、リーチュン来てくれたの!ありがとう。ママ喜ぶわ。今パパも寝てるから・・廊下で話そうか」
二人は休憩場の椅子に座って話した。レイは疲れていたが、リーチュンの顔を見ると元気がでた。
「こんな遠い所までありがとう。みんなは元気?」
「もちろんだよ。みんな心配してる。・・・レイちゃん、ソロになってもいいよ。お金がいるんでしょう?」
「あ・・・うん、そうなの。でも決められなくて。みんなと離れるの嫌だけど・・・手術代足りないし・・・」
「受けなよレイちゃん!お母さんを助けなきゃ。私は反対しないし寂しがらないよ。安心して!」
リーチュンは昨日とうってかわって明るかった。
「リーチュン・・・ほんとに寂しくないの?」
「もちろん、本当は寂しいよ。でもそう言ってたらお母さんの病気が治らないじゃない。レイちゃんの1番大切な人は両親でしょ?だったら何かに引き換えても守らなきゃ!私は応援するよ」
にっこり笑顔でガッツポーズするリーチュン。絶対泣かれると思ってたレイは少し拍子抜けした。
「・・・リーチュン。・・・うんそうね、ありがとう。大切な人は何かを犠牲にしてでも守らなきゃね!」
ママが元気になってくれるなら、自分の夢は諦めよう。誰も反対しないのなら間違ってなんかないのね。
「決めたわ。私ソロをやる!夢はまた新たに探せばいい。ママを助けるためにも・・・私、やるわ」
「それでこそレイちゃんだよ!頑張れ。離れてもずっと友達だよ」
「うん。ありがとうリーチュン。大好きよ!」
二人は手を取り合って微笑んだ。話がわかる友達でよかった、心から存在をありがたく思った。
しばらくしてリーチュンが病院から出ると、玄関前に殷焱と孫媛がいた。
「密かに私達も来てたの。心配になって」
「レイの顔みたらすぐ戻るわ。一緒に帰ろう・・・・・だから、泣かないで待っててね」
「うん・・・・・」
リーチュンは流れる涙を拭かずに歩いた。
その日の夜、レイは医師と話した後、王さんに電話し承諾する事を告げ、明日北京に戻る事になった。
「ママ、明日一緒に北京の病院に行こうね。早く良くなってね。ママ・・」
そう言ってまた少し泣いた。レイの父親が優しく抱きしめた。
翌日、メンバーと再会した。みんな笑顔で迎えてくれた。
「レイちゃん久しぶり!疲れた顔してるけど大丈夫?」
「うん大丈夫よ、ありがとう。みんな・・・いつも本当にありがとうね。あのね、私・・・」
「いいのよ、無理しなくて。みんな分かってるから。もう涙は乾いたわ」
「そっか・・ありがとう。あっ、あのね、まだだから。日本の音楽会に出てからきちんと契約して発表なの」
「そうなんだ。じゃあお別れの言葉はまだ言わないよ。普通にしてるからね」
孫婷が言うとみんなうなずいた。お別れの言葉か・・・今はまだ考えられないな・・・少し寂しくなった。
そして、音楽会のため日本に発つ日、レイは母にいってきますを言いに病院に行った。
「ママ。明日はとうとう手術だね。頑張ってね!私はどこにいてもママの無事を祈ってるわ。元気に・・・」
涙で言葉がつまった。元気になったら一緒にお出かけしようね、欲しい服買ってあげるからね。ママ・・・
父に見送られ病院を出た。帰ってきたら真っ先にここに来よう。それまで泣くのは我慢しよう。
日本に着き、ホテルの部屋に入るとレイはベットに倒れこんだ。
寂しい!1人がこんなに寂しいものとは気付かなかった。いつもメンバーに囲まれていたから。楽しかったなぁ・・ロケ先では写真撮りあって、おいしい物食べて、隣にはリーチュンがいて・・・会いたいよ・・・
それから1時間後、リハーサルのため会場に行った。知らない音楽家達ばかりで少し緊張した。
自分の音合わせが終わり、裏の待機所に行くと通訳さんの小バックの前に1匹の猫がいた。
「えっ、日本ではこんな所にもペットを持ってくるの?あっ、ひっかいたらダメよ!」
と言ってバックを持ち上げた時、パシッと猫のひたいに軽く当たってしまった。驚いたネコが走って逃げた。
「ちょっとあなた!私のシェラちゃんに何をするのよ!」
見ていた飼い主が怒鳴った。プライドの高そうな美人バイオリン奏者だった。レイは謝ったが中国語だ。
「何を言ってるのよ、誰なのこの子。もう、とにかくシェラちゃんを連れ戻してきてよ!」
駆けつけた通訳さんに聞いて焦ってネコを探した。ネコはスタッフの休憩所の隅に隠れていた。レイが右手をだしておびき寄せるとネコは足にコードを引っかけたままレイの横をすばやく抜けた。その途端・・・
「キャア!熱い!!!」
台に置いてあったポットが倒れた!そして中の熱湯がこぼれレイの右手に全部かかったのである。
「熱い!痛い!痛い!」
ポットは壊れかけだったらしく倒れるとフタが開いたのだ。周りは驚き騒ぎ始めた。レイはうずくまった。
「大変だ!病院に連れて行こう!君大丈夫かい?立てるかい?」
その時ネコは飼い主に抱っこされていた。女性はレイに謝りもせず、ネコにほおずりしてその場を去った。
レイは熱さと痛さで口がきけなかった。通訳さんにいわれるがまま病院に行った。やけどは重症だった。
その後、レイは右手に力をいれる事ができない事に愕然とした。明日が本番なのに!
「出演辞めましょうか。この手で出たらファンが心配しますよ」
「だめです!出なきゃだめなのです!今は少しでも働きたいのです!」
レイが右手をおさえながら通訳さんと臨時の付き人さんに訴えた。出たいの、手術代を稼ぎたいの!
ホテルの部屋に戻ったレイは包帯を巻いた右手を見て泣きそうになった。こんな事になるなんて・・・私が楽器を弾けなくなったら誰がやるの?ママの手術代は誰が払うの?私しかいないのに・・!
「だめよ。泣いたらだめなのよね。ママが元気になるまで泣かないって決めたのよ。頑張らなきゃ」
グスンと涙を拭いてどうするか考えた。明日もう1度病院に行こう。そして痛み止めを塗ってもらおう。
当日。音楽会は昼の1時からなので午前中に病院に行けば十分間に合うはずと考え、9時開始の病院に行った。すると医者が、無理しないほうがいい、となかなか了解してくれないので困った。
「お願いします。私はどうしてもコンサートに出なきゃならないのです!」
熱意に押されて医者は薬を大量に付けた。すごくしみて痛かったが、力が入れられるようになった。
大急ぎで会場に向かうと丁度間に合い、出演者たちが集まってスタッフから説明を受ける所だった。
「あの、大丈夫なんでしょうか?辞退するかもと聞いていたから順番を最後にしましたよ。いいですね?」
「はい、大丈夫です。出させてください」
通訳さんから聞いたスタッフは安心し、全員への説明を始めた。もう痛いなんて言ってられないわ・・
音楽会が始まり、最初に出演者全員がステージに並んだ。
満席の会場から拍手が送られると、内心レイは少し戸惑った。自分の時も拍手をくれるだろうか・・・
コンサートは順調に進んで行った。
大人しく出番待ちをしていたかったが、時間がたつにつれ心配になり最後近くなってくると、レイは本番のように独弦琴の練習をしていた。すると・・・・また痛みが襲った。
「いやっ・・すごい・・ヒリヒリして痛い・・・」
通訳さんにお願いして少し包帯を取ってみた。レイは自分の手の皮膚のひどさに気持ち悪くなった。指1本1本にも包帯を巻いてるがそれまで取る気にはならなかった。これを見て通訳さんが哀れに思い、
「やはり出場辞めましょうよ。こんなにかわいそうな手をしてでも演奏するなんて・・・」
そう言い涙を流してくれた。レイも正直出たくないと思った。骨折したみたいに包帯で白くなった右手を会場にさらすのが嫌だった。ファンにも心配させたくないし・・・痛い・・・ママ・・・私どうしたらいいの・・・
通訳さんに慰められ辞退する事に納得すると、付き人さんは走ってスタッフに言いにいった。
数分後、なにやら廊下がバタバタしていた。きっと穴埋めしてくれる演奏家を探しているのだろう・・・
レイは自分の出番だったはずの時間にステージを見に行くことにした。スタッフは誰もレイに気付かない。
「私・・・音楽家として最低なことをしてしまったんだわ・・・ごめんなさい・・」
沈んだ気持ちのままステージそでに行き見ると・・・・・・・・・・レイは絶句した!
ステージに立っているのは・・・・十二楽坊のみんなだった!レイはゆっくり両ひざをついた。
「あぁ・・・私は夢を見ているの?・・そんな・・・みんなが・・・・なぜ?」
口をおさえて泣いた。みんなが来てくれるなんて考えてもみなかった。どうして?怪我した事言ってない。
演奏が終わると大きな拍手が送られた。いつの間にか通訳さんがレイの横に来て拍手をしていた。
「えー女子十二楽坊のみなさまは、つい先ほど来日されたと言う事で・・・雷滢さんの代理として・・・」
司会者が説明すると会場から拍手がおこった。メンバーの急変をみんなで補ったという感動話だからだ。
そしてその後出演者全員がステージに上がり、大きな拍手とともに音楽会は幕を閉じた。
「みんな、来てくれてありがとう!この恩は忘れないわ。本当にびっくりしたわ、どうして?」
「昨日通訳さんが私達に電話をくれたの、レイちゃんが怪我したって。もう!1人で無理しちゃだめだよ」
リーチュンがレイの頭をなでる。レイを囲んでみんなもそうだよ、と口々に言った。
「さっ、レイちゃん。中国帰るよ!病院へ急ごう!」
バオが腕をひっぱる。レイは戸惑いながらもみんなに合わせて大急ぎで帰る支度し空港へ行った。
「ほんとは大蓮に行く予定だったの。でも空港で王さんと言い争いした末に強引に日本に来たんだ。仲間のピンチはみんなで助けるのが楽坊のきまりでしょ。わがままに思われたかもしれないけどいいの!」
飛行機の中でリーチュンに話を聞いたレイは泣くのをこらえた。メンバーの絆が深い事を改めて思った。
北京に着くと全員でまっすぐに病院に向かった。母の手術は終わっただろうか・・無事なんだろうか・・・
勢いよく病室のドアを開けると、父が立ってレイの肩をつかんだ。
「イン!喜べ!母さんの手術が成功したぞ!もうじき元気になるそうだ!やったな!」
「パパ・・・・・ほんとなのね!ママ元気になるのね!嬉しい!!」
喜んで父に抱きつく。わぁ、とみんなも喜んだ。その声に母が少し目を開けた。レイが気付き近づく。
「ママ、私よ!ママ、頑張ったわね。本当によかったね!ママ」
うっすら微笑む母。レイは我慢することなく泣いた。いつまでも、泣き止まなかった・・・・
「そんなのダメよ!」
レイが言う。みんなが音楽会の出演料を全部レイにやると言い出したからだ。
「事務所にいっちゃう分以外はすべてレイちゃんの物だよ。だって私達、何もしてないもん」
「みんなが演奏したのに・・・・私のせいで・・・・」
「私達何もしてないわ。お母さんのために出演したのはあなたでしょ。手術代、これで間に合うわね!」
「うん。みんなありがとう・・・ありがとう・・・・このご恩は一生忘れません。ありがとう・・・」
数日後。レイは十二楽坊の楽屋の中にいた。
結局日本デビューは取り止めにしたのだ。レイは王さんと怒る日本の事務所に頭を下げて謝った。
「あなた達だけの問題ではないのですよ!契約金も決まっていたのに・・1番の理由はなんですか?」
「私にソロになる覚悟が出来てなかったのです。申し訳ありません。まだ十二楽坊で頑張りたいです」
音楽会での出来事は日本側も知っている。レイの理由を確かにと思ったのだろう、なんとか了解してもらい世間的にも公表しなかった。こうして『雷滢脱退説』としてファンの間だけの噂で終わったのある。
「ほんとにこれで良かったの?」
「うん!こんなにもみんなに大事にされているだもの。そしてこれがみんなへの恩返しに・・・なるかな?」
「なるなる!私達ずっとレイちゃんと一緒に頑張りたいって思っているんだもん!叶えてくれるのね」
「私達・・・でも合ってるけど、特にリーチュンは!でしょ?」
クンにツンと頭をつっつかれたリーチュンは照れ笑いした。レイも一緒になって笑顔でつっついた。
ありがとうリーチュン。あなたは私の大好きな1番の親友よ。
今回私はたくさんの人に迷惑かけてしまった。この罪をずっと忘れないでこれからも頑張ろう。
ありがとうみんな。十二楽坊はこれからもずっと13人です!
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