私の名前はジャン・リーチュン。
杭州出身で中央音楽大学に通ってて、てんびん座でAB型で・・・あとはーえっと・・・えっと・・・
「思い出せない。私って今何をしてるのかしら?」
リーチュンがベットから起き上がって辺りをキョロキョロする。ここはどこ?白いからどうやら病院みたいね。
「うー寒い寒い。あ!リーチュン目が覚めたのね!よかったー!」
誰だろ?髪の短くてちょっとボーイッシュな感じね、でもかわいい顔してるなぁ。大人っぽいし・・・・
「どうしたのリーチュン?頭痛いの?」
「・・・・・あなたは誰?」
「えっ?な、なによリーチュン、演技してるの?もう」
「ううん。あなたは誰?どうして私の名前を知っているの?」
キョトンとした顔でレイを見るリーチュン。レイは笑顔から一気に真顔になった。
「リーチュン。嘘だよね?私よ、レイ・インよ。あなたの親友のレイよ。ねぇ、わかるでしょ?」
「レイさんっていうんだ、初めまして。あ、違うか。友達同士のようだね・・・・私達。そうなの?」
レイの顔は真っ青だった。リーチュンは素直すぎて、演技が出来ない性格なのは知っている。このまるで初対面のような表情、ハテナが頭に思い浮かんでいるような表情。嘘じゃない、本気なんだ。
「・・・・・・記憶喪失・・・・・って言うのよねこれ・・・・」
レイは医者を呼びに行った。そしていろいろ見てもらい細かく検査してもらった後、別室で話を聞いた。
「記憶を失ってますね。ただすべてでは無く、ごく一部、多分今から5、6年くらい前までの間の出来事を失くしていると思います。つまり、幼い頃の記憶はありますが、去年やおととしの記憶がないのです」
「過去5、6年間・・十二楽坊がまだ結成されてない時期だわ。オーディション受ける1年前くらいかな」
とにかくこれは一大事だわ、早くみんなに知らせなきゃ!でもなんて説明しよう・・・だってこの原因は・・
「えー!!記憶喪失!!!」
11人全員が立って目を丸くして絶叫した。レイはビビッて片目をつぶり、リーチュンはキョトンとしてる。
「ほ、ほんとなのねリーチュン?私のことわかんない?」
クンがリーチュンの前でしゃがみ、おそるおそる聞く。リーチュンは困った顔をしてうなずいた。
「お、お、おぉ落ち着きなさい!ね、ね、落ち着きなさい」
「まずジェンナンが落ち着きなさい」
「はい・・・」
ジェンナンがティンちゃんに怒られるとは。このめったにない光景にみんな微笑し冷静を取り戻した。
「すいません、私はみなさんの友達だったようですが・・・全然思い出せないんです・・・」
「つまりリーチュンは十二楽坊を忘れちゃったのね・・・仕方ないわ、じゃあ私が説明してあげる!」
シュアンが横に座って女子十二楽坊というグループを教えてあげた。デビュー当時よくテレビ等でしゃべっていたからとてもわかりやすかった。人気ぶりを聞けば聞くほどリーチュンは、ただ驚くばかりだった。
「とりあえず・・・また1から教えなきゃね。自己紹介するわ。私は琵琶担当の張爽、同じく張琨、仲宝」
1人1人挨拶した。なんだか結成したばかりの素人に戻った気分だった。王さんと梁剣峰先生にも説明し、しばらくファンには伝えない事にし、所属する楽団には楽坊の仕事が忙しいという理由をつけた。
「心配しないでね。記憶が戻るまで私達がうまくやるから。私が、ずっとそばにいて面倒みるわ!」
「ありがとう、レイさん。皆さんごめんね、私、自信ないですが・・・」
「いいのいいの。私が思いださせてあげるわ!だって私とリーチュンは親友なんだもの」
ということでレイがリーチュンの面倒を見ることになった。リーチュンには、練習中は楽譜を見て聞いててもらい、収録の時は見学、雑誌の撮影は出てもらうがインタビューは避けるようにした。
「なんとか上手くやってるけど・・・ねぇ、私達の仕事風景見ても何にも思い出せない?」
やっぱり困った顔をして首をかしげる。レイはめげずに休憩時間いろいろな思い出を話した。
「それでね、リーチュンったらカメラのフタ閉めたまま写真撮ろうとしてるのよ!焦ってる姿に笑ったわ」
レイがロケ地での出来事を語る。リーチュンは思い出せないが、それはとても楽しかったような気はしてた。
「そうだ!今日の夜いつも食べに行ってたお店に行こうよ。リーチュンあそこのスープが好きだったよね」
「もー、レイちゃんったら最近リーチュンに付きっきりね。たまに私達に頼んでもいいのよ」
バオが入ってきて聞いたが、レイは「いいのよ」と断った。最近自分の時間を持てていないが仕方ない。
夕方、仕事が終わり待ち合わせの時間まで時間があったので、リーチュンは街を1人で歩いていた。
「なんだか・・・変な感じ。私まだ学生だったはずなのに、朝起きたら国を代表する音楽家になっている」
さっきパソコンでファンページを見たが、中国にも日本にも自分のファンがたくさんいて、性格や好きな食べ物までみんな知られてる。自分のCDが売っていてポスターが貼ってあり、CMまでやっている。
「・・・このまま思いださなかったらどうしよう。レイさんに悪いよね・・あんなにまで私のために頑張ってくれて。優しい人だなぁ・・みんなも。私って素敵な人達に囲まれて仕事してたんだ。幸せなのね」
歩いていると誰もいない川原に着いた。夕日がキレイでなんだか無償に叫びたくなった。これは性格?
「女子十二楽坊のジャン・リーチュンってどんな人ですかー!!!」
・・・フゥ、スッとした。みんなの頼みで親や恋人に聞いてはいけない。私が頑張らなくっちゃね!
「もう!なんでみんなもついてくるのよ?」
レイが不満そうな顔でユエン達に聞く。待ち合わせの場所は練習所のすぐ近くの小広場のベンチ。レイがリーチュンを待っていると、ユエンとジェンナン、バオ、ビンチュイ、クン、イエンがやって来たので驚いた。
「だって何もかもレイちゃんが背負っちゃ大変じゃない。思い出を語るくらい協力させてよね」
「いいのに別に!だって私がリーチュンのお世話係なのよ。私が思い出させるって約束したのよ」
「責任感があるのはいい事だけど、私達仲間じゃない!寂しいよ・・・何も力になれないなんてさ」
「違うの、だめなの、私がやらなきゃ!だって・・・リーチュンの記憶を失わせたのは・・・私なのよ!!」
・・・ドサッとかばんの落ちる音がした。みんなが振り向くとそこには、青ざめた顔したリーチュンがいた。
「ウソ・・。あなたが私の記憶を・・・事故って言ったじゃない。私の面倒はただの罪滅ぼしなのね・・・」
「リーチュン違うの!私のせいだけど・・・本当に親友だと思っているの!心配なのよ!」
レイが近づこうとすると、リーチュンは1歩後ろにさがった。泣きそうな顔で体は震えていた。
「イヤ!こないで!あなたが怖い!」
そう言うと走って行った。レイは待ってと叫んだが聞いてくれなかった。追いかけようとしたらジェンナンが止めた。しかし行こうとする力の方が強く転びそうになる、慌ててユエンとクンとイエンもレイを抑えに入った。
「いや!離して!リーチュン待って話を聞いてー!」
「私達が連れ戻してくるわ!」
バオとビンチュイがリーチュンを追いかけに走って行った。レイはそれでも落ち着かず強引に座らされた。
「リーチュン・・・・ごめんね・・・リーチュン・・・あれはわざとじゃないの・・・」
リーチュンは”なんとなく”来たことがある道を歩いていた。左手で口を抑え泣いていた。ずっと信頼してたのに。1番優しいと思っていた人が、私を事故にあわせた人だったなんて。嫌われていたのね・・・
「あれ?リーチュンじゃない!どうしたの?」
偶然ティンに会った。学校に寄ってから家に帰る所だったらしい。何も知らずに明るかった。
「私の家小料理屋をやってるのよ、忘れちゃった?一緒に夕飯食べようよ。すぐそこだからさ」
「ティンさん。・・・グスッ、はい、いいですよ。お腹すいてるし」
二人で歩き始めると、ティンの携帯にバオから電話がきた。
「もしもし、実はリーチュンがいなくなっちゃったんだけど、ティンちゃん知らないかな?」
「リーチュンなら今私と一緒にいるよ。今からウチでご飯食べるの、だから安心して。思い出を話すわ」
よろしくと言って電話を切った。バオとビンチュイは密かにティン達を近くのビルのかげに隠れて見ていた。
「わかったわ。じゃあ二人ともこっちに戻ってらっしゃい。レイ、そろそろ話してくれるわね、真実を」
ジェンナンがビンチュイからの報告電話を切り言う。レイは暗い顔をしていた。私のせいなのよ・・・
あの日、1日休日をもらったのでリーチュンとレイは最近新しく出来たミニタワーへ遊びに行った。
「近くまで初めてきたけど、けっこう小さいタワーだね。ビルの何十回建てって感じ」
「でも場所がいいから街を見渡せるし、反対側は海が見えるんだって!1番上に行こうよ!」
観光客もいたが気にせず二人で入った。上に行くと展望台みたいな感じでガラス張りの広い部屋、その1階上が屋上になっている。最初はガラスにくっついて騒いでいたが、外に出たくなって階段を登った。
「すごーい!晴れてるから風が気持ちいいねぇレイちゃん!」
「うん!ねぇ、あっちの海が見える方向に行こうよ。ほら、行こう!リーチュン」
レイが笑顔で右手を差し出す。これが好きなんだ。レイちゃんのこの言葉、その笑顔、私大好き!
そして二人は柵越しに、口に両手をあて大声で遠くの海に向かって叫んだ。
「レイちゃーん!大好きー!!」
「リーチューン!ずっとずっと友達だよー!!」
笑顔で顔を見合わす。心の底から好きな親友だった。
しばらくして帰る事にし、二人はエレベーターが混んでいたので階段で降りることにした。
途中、ふいにレイが左側にいるリーチュンの髪を通り越して、今自分が降りてきた階段を振り返った。子犬が降りていた。飼い主が3段上から見ている。子犬はレイと目が合うと急に勢いよくかけ降りてきた!
・・・レイは何も言わなかった。声が出なかった。このままならどうなるか・・・見て見たかった・・・
「キャア!!なんなのこの犬!イヤ怖い!・・・・・・・キャアーー!!」
・・・リーチュンは先月くつ下を犬に噛み破られて以来、苦手になっていた。レイはそれを知っていた・・・
慌てたリーチュンは段を踏み外し階段を転げ落ちてゆく。それをレイは大口を開けて見ていた。
「・・・・・話は終わりよ」
レイが視線を落として言う。みんな何て言おうか考えていた。レイがワザとじゃないのはわかる。でも・・・
「親しき仲にあるイタズラ心がつい出てしまったのね。でも何も、階段でやらなくても・・・」
「そうよ、危ないことくらいわかるでしょ!どうしてすぐ教えてあげなかったのよ!」
「・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・」
「クン、イエン、もうよしなさい。レイ、あなたを責めはしないけど、あなたは責任をとるべきね」
ジェンナンが腕を組んで言う。厳しいことを言ったがみんな本当の意味はわかっていた。責任なんかじゃない、大好きな親友といる時に失ったのなら、思いだすのもその親友とじゃなきゃだめだって事を。
その頃リーチュンはティンの店で夕飯を食べながら過去の話を聞いていた。自分とレイはまるで姉妹のような仲で、いつでもどこに行くにも一緒だった。写真を撮る時は決まって隣同士だってことも。
「レイさん・・・・やっぱり本当に親友なのかな。話していると安心する気持ちは・・・その証拠・・?」
「リーチュン・・・・ごめんね。私が必ず思いださせてあげるからね・・・大切な・・・大好きな親友・・・・」
次の日、ロケの仕事で広い草原のような公園にいた。そこで風に吹かれて演奏する予定だったが、現地で責任者が来てここの使用許可がおりていないとかでケンカになりスタッフ達はモメていた。
「ちょっと交渉に時間がかかりそうだから、あなた達は向こうで自由にしててください」
スタッフに言われて13人はその場を離れた。クンがこれはチャンスと思い、レイにこっそり近づいた。
「私達何も言わないから、見てるから。リーチュンと話してきなよ!あの子が取り乱すようなら助けるから」
そう言って向こうに行ってしまった。昨日の今日だからリーチュンとレイはまだ一言も会話をしていない。
「・・・・・リーチュン。寒くない?今日天気いいけど風が冷たいね」
レイは明るく言ったが、振り向いたリーチュンはまだ不審そうな堅い表情だった。
「そういや敦煌に行った時も風が強かったね。でも楽しかったね!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ガイトさんをやったり、天女になったり。写真もいっぱい撮ったよね!また行きたいね」
「・・・・・・・・ごめん、わからない・・・・・」
レイは言葉が続かなかった。リーチュンもまた、悪いと思いながらも何も言えずにいた。沈黙が続く・・・・
メンバーは少し離れた所で集まって二人を見ていた。じれったい光景にイライラし始めていた。
「何やってんのかしらレイったら。会話しないと思い出せるものも思い出せないじゃない」
「・・・・・このまま思いださなかったらいいのに・・・・・」
クンがボソッと言った。それは全員に聞こえ「何言ってるのよ!」とそれぞれ騒ぎ出した。
「だって!レイで思い出せなかったら他の人に変えるんでしょ?私だって、私だってリーチュンの友達よ」
クンが振り返ってみんなを見た。クンの目は少し潤んでいた。
「いつもリーチュンにはレイって決まった形が出来てるけど、本当は・・・本当は私だってもっとリーチュンと仲良くしたいのよ!別にレイから奪いたいとかそんなんじゃなくて・・・・でも一緒にいたくて・・・」
みんなクンの意外な告白に驚いて何も言えなかった。クンは両腕を小さく上下に振って泣き顔になる。
「私だって・・・私だって本当は、リーチュンの親友と呼べる友達になりたかった!」
クンは両手で顔を覆う。リーチュンのお世話をしたかった。もし自分のおかげで記憶を戻してくれたら・・・・そう密かな期待を持っていた。レイが嫌いとかじゃない。ただもっと仲良くなりたいの。もっと。
イエンが近づきクンを抱きしめる。みんなに優しいクン。でも密かな1番はリーチュンだったのね。
「落ち着いて、クン。気持ちはわかるけど、今はレイを応援しましょう。あの子も同じ気持ちだから」
リーチュンは立ったまま空を見上げていた。なんだか懐かしい気持ちになり何かが思い出てくる。
「青い空・・・流れる雲・・・こう見つめるのが好きだったんだ。そして・・・隣には・・・」
「あ、スタッフさんが楽器運んでる。話し合いが終わったんだわ、行きましょリーチュン」
リーチュンは正面を向き無反応だった。レイは落ち込みながらも明るく笑顔で振舞った。
右手をだして「ほら、行こう!リーチュン」
「!!!・・・・・・・・・この言葉・・・・・・・・・・レ、レイちゃん?」
「え?・・・リーチュン。リーチュン!そうだよ!私よリーチュン!」
「レイちゃんレイちゃん!私思い出したわ!レイちゃんのことも、楽坊のことも全部!敦煌楽しかったね」
「リーチュン!よかったー!本当によかった・・・・大好きよ!」
二人は抱きあって飛び跳ねて喜んだ。リーチュンのいつもの笑顔が戻った。やっぱりレイのおかげだ。
リーチュンの記憶が戻ったと、飛びはねる二人を見てみんな確信した。一斉に安心した顔になったが、クンだけは複雑そうな顔だった。グーにした右手を口にあててリーチュンを見ていた。イエンが笑顔で、
「クン。もし私が記憶喪失になったらクンが面倒みてね。だからこれから、一緒に思い出作りましょ」
「・・・・イエン。うん、ありがとう。そうね、その時は私が思いださせてあげるわ!」
「大丈夫みたいね。じゃあみんな、リーチュンにおかえりを言いましょうか。いい?せーの・・・・」
「ジャン・リーチュン!!おかえりー!!」
みんなで声をそろえて大声で言った。リーチュンは振り向いて思いっきり笑顔で大きく手を振った。
「みんなーありがとう!ただいまぁー!」
「みんな信じて待ってたんだからね。グスン・・・。さぁ、ほら、行こう!リーチュン」
「うん!!」
二人は手をギュッと握ってみんなの所へ走って行った。リーチュンは今までよりもずっと元気になっていた。
記憶があるないだけで、世界がずっと違ってみえるのね。でも私という人間は変わらなかった。変わらなくてよかった、大事な友達を失う事なく戻ってこれたことに感謝しよう。これもみんなレイちゃんのおかげ。
ありがとう、レイちゃん。一生の親友とよべる人がいる私は、本当に幸せな人間です!
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