「しっかし・・・よく食べるわねぇ・・」
イエンが呆れた顔で言う。まだ日本ツアー中なので、ここは日本の料理店だ。
横に座っているスン・ティンは、最近よく食べる!なんでも食べる。食欲旺盛時期まっさかりだった。
「だって日本料理っておいしいものばっかりなんだもん。あ、イエンちゃんお茶ついで」
口いっぱいにモグモグしているティンを、みんなかわいいなぁとしみじみ思ってみていた。
楽坊の末っ子的存在で甘えん坊、でも結構サバサバしてるとこもある彼女は、みんなに可愛がられてる。たまに後先考えずに行動する所もあるがそれもまた魅力。誰にでも好かれる要素がある。
「急に食欲が旺盛になるって、女の子の場合大抵理由があるのよ。最近なんかあった?」
「べっつにぃー」
「いい事あったんでしょう?それとも逆に失恋したとか?なんかストレス溜まることあったとか!」
「イエン・・・それを聞くのはマズイのでは・・・?」
あっ・・と言ってみんながイエンからティンに目を移した。ティンは怒ってますといった顔になって食べていた。
おととい腹立ったことがあった。楽坊はツアー中にも取材は受けており、その日楽屋で写真撮影中、
「はい、ではすいませんが2ショット写真とるので好きな方とペアになってください」
と言われたのでみんな何も考えず自然にそれぞれ組んだ。私は誰にしようかな・・・・・あれ?
「はいどうも。ではこちらのお2人からそれぞれ・・・・・」
「ちょっと!私余ったんですけど!」
ティンがカメラマンに訴えた。13人いるのだもの、2人ずつ組んだら1人余るのは当然である。
「えっ、あっ、間違った!十二楽坊だから12人かと・・・すいません!!申し訳ない!」
必死で頭を下げてきたから許してあげますけど、勉強不足だわ、失礼しちゃうよ、もう。みんなもひどい!
「あの・・・ごめんねティンちゃん。誰も気づかなかった、まさかティンちゃんが余るとは・・」
シュアンがなでたがティンは、フンッと言ってそっぽを向いた。みんな笑っていいのかだめなのか迷った。
別にみんなティンを嫌ってるわけではない。ただいつもの友達と自然に組んだだけで、ティンの運が悪かったのだ。ティンはみんなの行動に怒っているのではなく、貧乏くじをひいたという事自体が嫌だった。
「どうせ私は影が薄いですよーだ」
「誰もそんな事思ってないわ。もう、こんなに気にするんだったら私やジェンナンが余ればよかったわ」
結成以来、なんの事情もなく自分だけが誰にも選ばれなかったなんて1度もなかった。改めて気づいたわ、自分には特定の友達がいなかった事。まぁ、別にいいけどね。大体私は平均主義なんだもん。
食事が終わるとみんなで雑貨店に入った。女の子向けの店内は、ピンク色やお花やキャラクターグッズでいっぱいだった。キティちゃんが大好きなシュアンは興奮していた。みんなもはしゃいでいた。
「ティンちゃん!このキティちゃんのぬいぐるみ買ってあげるよ!これで機嫌直して」
「それなら私もなんか買ってあげるよ。何がいい?確かハンカチ欲しいって言ってたよね?」
「シュアンもバオもいいよ、気を使わなくて」
「いいから、いいから。もらったほうが得よ」
じゃあ私も、とみんなして言うもんだから店を出るときには荷物がいっぱい!重いよ。でも嬉しいな・・・
「ティンちゃんは幸せだね、こんなにいっぱいプレゼントもらっちゃって」
クンの言葉にティンはニンマリ笑顔になった。その顔がまたかわいくてみんなをひきつける。
帰ってる途中、ジンと一緒にみんなより前に歩いているティンを見て、ジンジンが言った。
「ねぇ、あの子が特定の友達を作るとしたらこの中で誰かしら?」
さぁね・・・とみんな首をかしげたが、密かに心の中で思っていた事は全員一致していた・・・
次の日、王さんが日本ツアー後にある中国での仕事の予定を話していた。音楽祭に出るらしい。
「・・ということで、楽坊から2人代表して出て欲しいそうだ。誰かやりたい者はいるかね?」
なんでもその音楽祭のアシスタントを楽坊から2名出してほしいと依頼がきたとか。ファンが増えそうだ。
「みんなやりたいに決まってるじゃないですか!ねぇ誰にする?ジャンケンしよっか」
「待って!いい事考えたわ。ティンちゃんやりなよ。でね、もう1人をティンちゃんが指名して欲しいの」
そんなの無理!と言う間もなく賛成の拍手が起こった。困るよぉ・・私は平均にみんな大好きなのに・・
ティンが困った顔で考え込んでいる。いつものように気軽に指名すればいいのだが、全員やりたいとなると、なんの理由もなくテキトウに誰かに決めることは出来なかった。見かねたジェンナンが切り出した。
「なんか・・・かなり悩んでるようね。かわいそうだから時間をあげましょう。後日でもいいですよね?」
王さんの承諾をもらい、返事は後々にしてもらった。ごめんねみんな、特定の人を決められないの。
そういうワケで、その日からスン・ティン争奪戦?が始まったのである。
「ティンちゃん!ご飯私の分も食べて。はい」
「ありがとうリーチュン。いいの?ほんとに食べちゃうよ」
「ねーティンちゃん、後でお買い物行きましょ!洋服買ってあげる」
「クンちゃん、もう昨日買ってもらったのに・・・いいの?」
急にみんなティンにちやほやし出した。こびを売るのは本当は嫌いだったが仲間にするなら遊びで通る。
「みんな・・・そんなにアシスタントやりたいんだ。私は別にいいのにな。ハァ。さ、作ろうっと」
部屋でジグソーパズルを出した。雑貨店でユエンに買ってもらったのだ。絵がかわいくて気にいってる。
「よし決めた。これを完成させた時に誰にするか決めよう。ツアー中に終わるよね」
そう言ってパチンとくっつけていった。これの保存用のがくはある、時間をかけてもいいね。
数時間後、夜の公演が終わり楽屋に戻ると、リーチュンがはいっとハンカチを出してきた。
「汗かいてるでしょ、これで拭きなよ。あ、お茶飲む?待ってね、今入れてくるからね」
「ありがと。なんだかリーチュン、私のマネージャーみたいになってるよ」
「それでもいいのよ。だって私好きな人のためにいろいろお世話するのが大好きなんだもん」
へぇ、とみんなでリーチュンを見る。けっこう尽くすタイプなんだ。リーチュンの魅力、1つ発見。
ティンちゃんが微笑んでリーチュンを見つめる姿を見て、みんな少し燃えてきた。みんな負けず嫌いだ。
ホテルに戻り部屋に入るとすぐ、パズルの続きを作り始めた。今日の同室仲間はシュアンだった。
「あら、ティンちゃんパズルやってるの?私も手伝ってあげるよ!」
「だめぇー。ごめん、これは1人で完成させたいの」
ふうん、と言うとシュアンは部屋を出て行ってしまった。冷たいこと言っちゃったかな・・・ごめん怒らすつもりじゃなかったのに。後悔しながら続けていたら、数分後シュアンが部屋に戻ってきた。
「頭を使っているとおなかが空くでしょう。お菓子いっぱい買ってきたよ、飲み物も。なんか食べようか」
ニコっとしながらスナック菓子の袋を開けて横に置いてくれた。怒ったわけじゃなかったんだ、ありがとう。
「じゃあ私はインターネットしてるから、眠くなったら言ってね。終わらせるから」
シュアンって優しいなぁ・・・気が利くし面倒見がいいし、お姉さんみたい!シュアンの魅力、再確認。
これでますます決められなくなっちゃったよ・・・
次の日、朝とても晴れていた。着替えて窓の外を見ていると誰かが部屋をノックした。ジンだった。
「おはようティンちゃん、もう着替えた?」
「おはようジン。うん、着替えたよ。どうして?」
「よしっ、朝の散歩に行こう!ジャケット持ってきて」
突然すぎる誘いに戸惑いながらも、ジンにひっぱられ外にでた。ちょっと寒いがいい天気。深呼吸した。
「たまにはいいしょ、こんなのも。ツアー中は運動する暇がないから体なまっちゃうしね。よしっ、走るよ!」
「あ、待ってよ。ジンー!待ってってばぁ!」
「頑張って捕まえてみなっ!ほれほれ」
アハハと笑いながら鬼ごっこしてるみたいにはしゃぐ二人。この天気に似合う光景、似合う笑顔だった。
ジンはいつも、私と同じことして一緒に笑ったり怒ったりしてくれる友達。だからとっても居やすくて楽しい!
ジンの魅力、私に合ってる。アーア、今日も1日悩みそう・・・
戻って朝ご飯を食べていると、クンがティンに話しかけてきた。
「ティンちゃん、今日の公演でこの地方から移動するし、今日は昼・夜あるでしょ。でも私最後にどうしても行ってみたい所があるの。人気のカフェ調べたんだ。お願い、午前中だけ付き合って!」
「別にいいけど・・・私達だけじゃ日本語がまだ不安だから通訳さんも連れて行こうよ」
OK!とクンが喜んで言う。その会話を聞いたメンバー数人は少し焦った。うかうかしてたら取られちゃう。
クンとティンと通訳さんの3人は、この街で有名な人気カフェに入った。オシャレで若い女性ばかりだ。
「よかった、窓際に座れて。ここいろんな種類の紅茶があって人気なのよ。ティンちゃん何にする?」
数分後にきた紅茶をすするクンにティンは見とれた。本当に気品があるわ。お嬢様とよばれるのがわかる。両足をそろえて斜めにし、背筋を伸ばして座る姿はモデル並。自慢な恋人になれる女性だと思う。
クンの魅力、憧れる。 ティンは悩む気持ちをアップルティーに込めて飲んだ。
昼の公演が始まった。ティンはいつもの通り楽しく弾いていたが、前列に座っているファンの目線がおかしいことに気がついた。曲と曲の間にチラッと自分の足元をみると、ストッキングに穴があいていた。
ウソ!どこでひっかけたんだろう、恥ずかしい・・・。その動揺のせいで次の曲では1箇所ミスをした。
リーチュンのソロ舞台の時に履き替えたが、少し落ち込んだ。その姿をユエンが見て隣にきてくれた。
「大丈夫?少しの失敗なんて気にしないの。お客さんが求めているのはティンちゃんの笑顔でしょ!」
その言葉に落ち着いたティン。その後の演奏は完ぺきだった。満足した笑顔でファンに手を振った。
終了後もユエンは心配して隣にいてくれた。さっきの失敗がだんだん消えていく気ような気持ちになる。
「あなたが元気に笑っていることで、私達やファンのみんなは幸せを感じるのよ。忘れないでね」
うん、ありがとう。人の心を癒したり安心感を与える力を持っているのは、楽坊内であなたが1番よ。
ユエンの魅力、落ち着ける。 迷っているけど、今は考えないようにしよう・・・
夜になり公演終了後、その地方の会場スタッフさん達が楽坊を飲み会に誘ってくれた。
「お疲れっしたー!今日で俺達とはお別れですが、みなさんは明日からも頑張ってください!乾杯!」
上司らしき人は3人しかおらず、あとみんな自分達と同じような若い年齢の人達ばかりなので楽しかった。
「スマスマ見て気に入りました。ツヨシ十二楽坊やってください!お願いしますっ!」
茶髪の男に頼まれると、バオはニコニコで「いいですよ」と言ってモノマネをした。全員爆笑だった。
「他にもできますよ!えっとねー最近出来るようになったのは、日本のアーティストの・・・」
次々と披露していくバオ。みんなに大ウケだった。ティンもおかしくてずっと笑ってた。すごいなぁ。男性のいる前でもできるなんて、本当に明るい性格だってことだよね。愉快で楽しくて可愛くて、私は好きだ。
バオの魅力、面白い。私も明るい人気者になりたいな・・・酔ってるのかな?
その帰り道、気分がよかったのでビンチュイにペンダントをあげた。カフェの帰り道に買った自分とおそろい。
次の日の移動中、電車の中でティンは相席のバオとジンジンに毎日パズルをしてる事を話した。
「クレヨンで書いたような絵でね。天使がたくさんいてみんな何かを見つめているの。完成楽しみだわ」
「心のパズルか、素敵ね。じゃあそれが出来たとき、アシスタントの相棒が決まるのね」
「そうだよね、誰にしたの?まだ考え中?なら私にしちゃいなよーよろしくね!あはは」
二人ともごめんね、まだなの。みんなの魅力がますますわかってくると、1番が決められなくて・・・
ホテルに着いて、部屋でさっそくパズルを出そうとしてたらバオが来た。
「おみやげ売り場で目についたから買ってきちゃった。日本の江戸時代って時のお財布なんだって」
もらったのは巾着袋みたいな小銭入れのビックサイズ。パズルのピース入れに調度いい。パズルは3分の1は出来ているので満杯にはならずに入った。するとバオは何を思ったのかヒモを持って振り回しだした。
「ちょっと!そうしばるものじゃないでしょ!あっ、ほら飛んでった。もう!窓開いてるのよ、危なかった」
袋はドサッと窓のサッシに乗った。ティンがすぐ持ち上げると、するりと1ピースが袋からこぼれ落ちた!
「アー!!落ちた、今下に落ちていったの見えたの!バオ!」
「ごめん!遊びのつもりだったんだよ、すぽぬけるとは思わなかった。一緒に探すわ、行こう」
落ちた所は中庭だ。一面きれいな芝生なのだが、窓から真下を覗くとホテルは砂利で囲まれている。
とにかく取りに行かなきゃと1階に降りると、ジンに会った。彼女はイエンを探していると言う。
「本を返してくれるって言ったのに、さっきから見当たらないんだよね。次はソンメイに貸すのにさ。ねぇ二人とも探すの協力してくれない?なんかあやしいんだよね、最近のイエン。よくいなくなるし」
仕方ないなと思い別れて探すことにした。なのにジンはバオにくっついて歩いてくる。
「アシスタント誰にするか決めた?ねー私にしてよ。インタビューしたい歌手が出るのさ。お願いだから」
「そんなのだめぇ。私の悩んでる意味がないじゃん。もう、ほんとに探してるの?」
「ティンちゃん!ジン!ちょっと来て!」
バオが走ってきて二人の手をひっぱった。訳の分からないまま連れられた。ホテルの隅のトイレより奥の通路を通りつきあたりを曲がろうとした時、3人は急いで身を隠した。イエンが男と二人きりでいたのだ。
「ねぇあの人同行スタッフの人だよね?付き合ってるのかな?」
「でもイエンちゃんって彼氏いなかった?別れたのかな?聞いてないよね?」
「・・・二人で何をコソコソ話しているのよ」
イエンがこっちを見て言う。ティンとバオはビクッ!と硬直し、なぜかごめんと謝った。別に悪くないけど。
「アーア、とうとう見つかっちゃったわね。残念だけどこれでおしまい。さよなら」
「約束だもんな。タイムオーバーか・・・楽しかったよ、じゃあな」
そういうと男は行ってしまった。何?別れたの?私達のせい?イエンが笑って説明する。
「フフ、ちょっとしたゲームしてたのよ。いろいろ条件つけてどこまで続くかっていう恋愛ゲーム。その中の1つに、誰かに見つかったらその場で終わりってあるの。やっぱりどこの国に行っても恋は楽しいわね」
『恋はゲーム』前にそう言ってたっけ。本当に実行してたんだ。すごい。バレただけで終わりにできるなんて、そんなに本気じゃなかったの?私にはわからない。恋はいつも真剣だから。大人だわ、尊敬する!
イエンの魅力、真似できない。しかしなんか私達が別れさせたみたいで申し訳ない気持ちになった。
「ごめんイエン、私達のせいだよね。・・・・・あれ?ジンは?逃げたなぁ!」
ドタドタと誰かが走ってくる音がする。みんなドアに注目してた。
「ちょっと!ジン!やっぱりここにいたわね!」
部屋のドアを開けるなりティンとバオが叫んできた。ジンはヤバイって顔で後ろにさがったが迫ってこられた。
「なに1人で密かに逃げてるのよ!バオと二人ですごい気まずかったんだから!もおー!!」
「わっ!おち、おち、落ち着いて!そんなつもりじゃなかったんだって」
「じゃあどんなつもりだったのよ!」
ギャーギャーと騒がしい。ちなみにここはユエンの泊まる部屋だ。みんなで出かける時は必ず集合する。
「ジンが廊下を走ってたから連れてきたんだけど、まずかったのかしら・・・」
ソンメイが戸惑い気味で呟く。するとユエンが「ねぇちょっと」と言って立ち上がった。ピタッと動きを止めた。
「取り込み中のところを悪いんだけど、ビンチュイ見なかった?ちょっと外に出てからまだ戻ってこないの」
え?と思って時計を見ると、ホテルに着いてからもう30分以上たっていた。バオとおしゃべりしながらノロノロとピースを袋に入れてただけなのに、時間がすぎるのって早い。ビンチュイは着いてすぐ外に出たらしい。
「後でみんなで行くよって言ったのに、気になるからって。なんかバスに乗ってる時見つけたお店みたい。話しによるとホテルから目と鼻の先だから5分で着くらしいのよ。それにしては遅すぎるのよね・・・」
ユエンが時計を見る。いつも目的を済ませばすぐ戻る子なのに。するとリーチュンが小さく右手をあげた。
「あの、実は、その事を10分くらい前に聞いたレイちゃんが、迎えに行くって言ってまだ戻ってこないの・・」
「え!レイも!でも10分じゃまだわかんないよね。もう少し待って、帰ってこないならみんなで探しましょ」
クンの意見に全員了解し、ここでみんなで待つことにした。・・・・しかし20分近くたっても2人は来ない。
「もう無理!心配だわ、みんなで手分けして探しに行きましょう。あ、でも誰か1人残ったほうがいいわ」
「・・・じゃあジンジンで」
ティンはただ偶然目が合ったジンジンにお願いした。ところがジンジンは急にムッとした顔つきになった。
「なんで私が?いま行く気満々だったのに。私じゃ役にたたないってこと?」
違うわ!もう、なんだってこんな時につっかかってくるのよ。これだから女の子の気分って難しい・・・・
「ジンジン、そうじゃなくって」
「いいわよもう。みんな行ってらっしゃい。1人で寂しくいるわ」
ふてくされたような、でもちょっと笑ってるような、そんな感じでジンジンはベットに倒れ込んだ。
ティンがごめんと言って近づこうとしたらシュアンに止められた。
「いいから。あんな子供みたいな事いう人はほっときなさい。もう行こう、部屋からバックもってきて」
「2人が来たら事情を説明するのよ」と言って部屋を出た。ジンジンは無言だった。出かける準備を済ませロビーで待ち合わせ時間などを決めた。ここは日本、携帯電話は使えない。連絡を取り合うには会うしかないのだ。
グループを決めるとき、2人ずつと聞くとみんなティンに言い寄った。全くこんな時なのに!
「みんな・・・嬉しいんだけど私1人でいいよ・・・なんかね・・」
「それはだめよ。ティンちゃんまで道に迷ったらますます大変になるわ。私と一緒に行こう、ね?ね?」
「あのさ、みんな・・・もうやめたら?こびるの」
そう言ってきたのはソンメイだった。みんな注目する。ティンは困った顔のままだった。
「アシスタントやりたい気持ちはわかるけど、こびるってその人を喜ばすんじゃなくて、本当は傷つけているような気がするの。だって目的が済んでしまえば、その人は用無しになるじゃない。それまでの事が全部ウソになるのよ!それだったら、優しくしてもらわないほうがマシだと思う・・・」
何も言えなかった。確かに、ティンが誰にすると指名してしまえばもう終わり。選ばれたいためだけの優しさだと知ったら、誰だってガッカリするだろう。みんな少しやりすぎたかなと反省し黙った。
「そうね。悩ませたわね、ごめんねティンちゃん。でも今あなたを1人にさせるわけにはいかないわ」
するとジェンナンがティンの正面にきて、腰を低くして目線を合わせた。
「私と行きましょう。こびではなく、あなたの心を不安で染まらせたくないのよ。守ってあげるわ」
一瞬ドキッとしたが安心感があった。ありがとう、あなたと一緒なら知らない場所でも怖くないよ。
ジェンナンの魅力、頼もしい。誰も文句を言わず、5グループに別れて探しに出た。
レイは必死だった。ビンチュイが泣きながら歩いている想像をしたら、可哀想で・・・
「もう結構な時間がたったかも。みんなどうしてるかしら。探しにきてくれてるかしら」
みんながビンチュイを助けるかもしれない。自分は無駄骨だとしても、ビンチュイが無事ならそれでいい。1度ホテルに戻ったほうがいいのかどうか考えた。もう帰ったかな?それともどこかで泣いてるのかな・・?
急に立ち止まった。いま自分の名前を呼ぶ声がしたから。どこ?誰?辺りを見回すと・・・目が合った。
ティンとジェンナンは楽器店にいた。なんとなくいるような気がしたがビンチュイはいなかった。でも店内に彼女のサイン色紙があった。カタコトの日本語と手ぶりで、いつここに来たのか男の店員に聞いた。
「もう30分くらい前です。個人的にファンなんでサインもらいました。あの、お二人のサインも下さい!」
どんな場合でもファンの要望には答えます。書き終わると1回目の待ち合わせ時間になろうとしてた。
走って行くともうみんなが集まっていた。いた?って聞こうとした瞬間、みんなの首が右を向いた。
レイだ!こっちに歩いてくる。背中に誰かいる・・ビンチュイだ。レイがビンチュイをおんぶっているのだ。
「ビンチュイ!」 「レイちゃん!」 バオとリーチュンが駆け寄る。
「みんな!みんなもビンチュイを探していたのね。心配したでしょ、この子ったら泣きべそかいてたのよ」
「シーッ!もう。みんなありがとう。私は大丈夫よ、ちょっと転んじゃったけど。レイちゃんが助けてくれて」
レイちゃん・・今までずっと1人で必死に探していたのかな。それとも早くに見つけてずっとおんぶしてたのかな。どっちにしろすごい!女の子なのに体を張って。友達を思う『情』が本当にあついんだ、かっこいい!
レイの魅力、素敵に思う。交代してジェンナンがビンチュイをおぶる。足を怪我しているのだ。
「すごく綺麗な宝石店を見つけたの。そこで買ってすぐ帰るつもりだったんだけど、近くに楽器店があったからちょっと寄ったのね。遅くなったと思って走って帰ってたら、何かにつまづいちゃって・・・ひざから血が出たから薬局を探したの。そのうちに道に迷ってしまって、焦ったわ」
どうしたらいいのかわからなくなって泣いていた時に、レイが通ったのが見えたから叫んだというわけ。
「ドジねぇ、それに傷版だったらコンビニでも売ってるのに。よっぽど気が動転してたのね」
あっ、と言って左手で口を抑える。みんな笑った。ティンはお疲れ様、と言ってレイの手を握り微笑む。
「ところで宝石店で何を買ったの?」
「ふふ、ティンちゃんへのプレゼントよ!」
えっ?と思ってビンチュイを見た。ビンチュイはティンを見て微笑む。
「おそろいのアクセサリをもらった事すごく嬉しかったの。何かお礼したいと思って。だからみんなと行く前に行きたかったの。突然渡してびっくりさせたかったんだから。ティンちゃんハート型好きよね?はい」
そんなビンチュイ、私のために。いいのかなぁって気がした。今こうしてレイと手をつないでいるのに、他から”気持ち”をもらうなんて・・・。笑顔を見て、こびてるわけじゃないとわかると少し複雑だ。
でも確かに嬉しい!私にあげるためだけに知らない街を歩くなんて。ビンチュイは一途、仕事も恋愛も『想い』を突き通す。そのために泣くこともあり、それを見ると誰もが助けてあげたい気持ちになるのよね。
ビンチュイの魅力、ほっとけない。ハートのペンダントはティンの笑顔にとてもよく似合った。
ホテルに帰り集合部屋に入ると、ジンジンはベットに横になったままだった。まだふてくされているのか。
「ジンジン、ほら起きなさい。レイちゃんとビンチュイが帰ってきたわよ。ずっと寝てたの?」
シュアンが声だけで起こす。みんながフゥと一息ついて座ると、ジンジンは起き上がった。目線は下で。
「あの・・・ごめんねジンジン。ずっと気になってたの、悪いことしたなって・・・」
「ティンちゃん、こっち来て。で私に背を向けて立って」
低い声で命令するジンジン。ティンは理由を聞かずに言う通りにした。するといきなり抱きしめられた。
「ティンちゃーん!はい、これ落としたでしょ?拾っておいたよん」
ギャップに驚いた顔の前に出されたのはパズルのピース。そうだ忘れてた!部屋から落としたんだっけ。
「うわぁ、ジンジンありがとう!よかったー、でも言ってないのにどうしてわかったの?」
「あの時私中庭にいたのよ。よかったね、これであなたの心のパズルが1ピースうまったね。私のおかげよ」
ひょっとして怒ってたのは演技だったの?ジンジンったらうまいんだから。でもこんな演出けっこう好き!さりげなく嬉しい事してくれるんだ、顔と明るさだけじゃないモテる理由、初めて見て感じた気がする。
ジンジンの魅力、好きになりそう。ティンが喜ぶと、ジンジンはニカッと歯を見せて笑った。
見ていたメンバーの心は「・・・」だった。そういやジンジンだけは、こびる注意をうけていないんだっけ。まじめに守っているのに、こう見せられると何だか損してる気持ちになったのは、ジンだけではないでしょう。
「なんだか今日は疲れたな・・・・」
ティンがあくびをしながら言う。もう夜だった。
あれから改めてみんなで外に行き、買い物したりして楽しんで、夕方はローカル局の番組に生出演し、夜は有名料理店に行って食べ、今は部屋に戻りパズルをしていたのだ。完成まであと少し。
「もう寝ようかな。ソンメイはまだ起きてるの?」
今日の同室仲間はソンメイだった。彼女はティンを見るとにっこり微笑んだ。
「ティンちゃん、眠そうね。そろそろやめてお休みになったら?この本読んであげるから」
「そんないいよ。子供じゃないんだから、本なんて」
「でもこれすごくいいわよ!詩集みたいで。寝ながら聞いてるだけでいいから。ね、遠慮しないで」
あぁなんかジンが貸すって言ってたっけ。別にいいのに、しょうがないな。ティンはベットに入った。
「無理して起きてなくていいからね。じゃあ読むわよ。『私はどうして泣いているのだろう。たしか・・・』」
聞いているとなんだか昔の事を思い出した。小さい頃ママにこんな事してもらってたっけ、懐かしいな・・・ソンメイは人のために何かしてあげる事好きだもんね、優しいからつい甘えちゃうんだ。ありがとう。
ソンメイの魅力、お母さんみたい。ティンは子供に戻った気分のまま、いつの間にか寝てしまった。
次の日、起きると昨日のやりかけのパズルを見て驚いた。もう出来ちゃうじゃん!
「眠そうにやってたから気づかなかった。よぉし!今日で終わりにしよっ、もう決めよう!」
その日は昼・夜公演だったが、楽しみでずっとニコニコだった。メンバーにもファンにも「かわいい」ばかり言われた。演奏も絶好調!わくわくな気持ちは人を明るく元気にするのよね、楽しい1日だわ。
「みんな!今日でパズルが完成するの、出来上がり見にきてね!」
そして自分の相棒も発表する。さぁて誰にしようかな・・・
夜、みんなでティンの部屋に集り、パズルを囲んで座っている。ティンだけがもくもくと作っている。
「ねーねーティンちゃん、もうすぐ出来るよ!誰にするか決めた?」
「私ね、毎日みんな1人1人の魅力を見て確認したり、感心しながら考えてたんだよ」
「へぇ、知らなかったわ。ねっ、私にはどんな魅力があると思った?」
「リーチュンはまだ発見してない良い所がたくさんありそうなとこが魅力。シュアンは優しくされると、あぁやっぱりいつも素敵だなと何度も思えるとこが魅力。みんなほんとにいい人なんだって改めて思ったよ」
ティンは頭がいい、誰もがっかりさせないように全員の魅力を話した。みんな顔を見合わせ微笑んだ。
「えっと・・・これで・・・できた!さてあと1つ。これ、落としたあのピースなんだよ」
そう言って、パチンと最後のピースをくっつけた。その絵はクレヨンで書いた赤いハートだった。
「うわぁ、かわいいね!完成だね!天使達が見つめてるのはハートだったんだぁ」
「これ拾ってくれた時に、最後にしようと思って別に持ってたの。ねぇ、この絵の天使達って私達みたいね」
「ティンちゃん・・・どうして?」
「みんなで1つになってハートを見つめてる。私達も1つになって夢を見つめてるでしょ!ちゃんとみんなで手をつないで、笑顔で1つを見つめてる天使は、私達の心の姿だと思う。ううん、そう思いたいの」
みんなパズルを見つめてるティンを見た。天使・・・嫉妬や闘争心なんてない、誰かの大切なものは、みんなの大切なもの。1人占めなんてしない、1番になろうともしない、そんな純粋な天使が私達か・・・
「なんだか・・・私選ばれなくてもいいやって思えてきたわ」
「私も。自分じゃない誰かに決まっても、心からおめでとうを言えるわ。そんな気持ちに今やっとなれた」
「私も同感。恥ずかしいわ、つい欲にかられてしまった。ごめんね、ティンちゃん。悩ませちゃって」
ユエンの言葉でみんなもごめんと言った。ティンはアハッと首を傾け笑った。最高にかわいい笑顔だった。
「みんなありがとう。私アシスタントは、レイちゃんとやりたい。昨日の行動に本当に感動したから!」
ティンの魅力、いつだってかわいい笑顔でみんなを大好きに思っていること!
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