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張琨2:13人の「時にはこんな日々」by りょう


「運命の人ってほんとにいるんだわ」

クンがニコニコ顔で言う。みんな「ふぅん」と相づちをうちながら聞いていた。誰も笑っていない。

日本ツアーももうすぐで終わる。13人で回るのは初めて、だから楽しくてみんな帰りたくないと思っていた。

だがクンだけは違った。早く中国に帰りたいと思っていた。でも別にツアーに不満があるわけではない。

日本は好きだし、たくさんのファンに声援を送られ、握手もできて、手紙やプレゼントもたくさんもらえて心から嬉しい。このままずっと日本で活動できたら・・・そんな事を考えるときもあった。本当に今回のツアーは楽しく充実している。

それなのになぜ、帰りたいと思うのか。それは恋人の存在のせいである。

 日本ツアーが始まる1ヶ月くらい前、友達の紹介で出会った。会った瞬間、ひと目で恋に落ちた。

キャッ!かっこいい!俳優さんみたい。こんなにかっこいいのに、なんで彼女がいないの?ありえないわ。

「初めまして、ジャン・クンさん。いやぁー有名な女子十二楽坊の人と付き合えるなんて嬉しいな」

彼の名はヨウケイ。年齢はクンの1つ上、友達の彼氏の友達である。クンは会ってすぐ交際をOKした。

それからのクンの頭の中は彼のことばかりになった。メンバーとおしゃべりする時は必ず彼の話になる。

「もうすごい情熱的なのよ!毎日何回も電話やメールがくるし、仕事終わるのを外で待っててくれたり」

その顔はとてもニコニコで嬉しそうに話す。みんなクンのノロける姿に呆れながらも、かわいく思ってた。

 それから2週間たったある日、ジンジンの誘いがあった。

「そんなにかっこいいならさ、今日私たちご飯食べに行くからクンもおいでよ。彼氏連れてね」

・・・いいよって言ったけど、内心少し心配だった。誰かが彼を好きになっちゃうんじゃないかと思って。本当はね、無理だってわかってるけど誰にも見せたくないの。私しか見えないようにしていたいの・・・

「こんばんは。ほんとにかっこいい人ですね!お仕事何してるんですか?」

予想通り。みんな彼をほめる。嬉しいことなのだが、自分以外の子と話してる姿はやっぱり嫌だった。

「あ、ママから電話だわ。私ちょっとトイレで話してくる」

クンが席を立ったのを見送ると、すぐに彼はイエンに近づいてきた。

「イエンさん、実はファンなんだよね。クンに内緒で俺と付き合わない?」

「は?なに言ってるのよあなた。冗談はやめてよね」

イエンは鼻で笑いながら答えたが、彼は髪をかき上げるとひじをついてニヤリと微笑む。

「うそじゃないさ。俺の女になれよ。秘密の恋ってヒヤヒヤしてスリルあると思うぜ」

聞いていたメンバーは表情が曇った。ここにいるのは、イエン、ジンジン、シュアン、リーチュン、レイ、ユエンである。みんな彼が堂々とイエンに交際を申し込む姿を見てあぜんとしていた。

「嫌よ、断るわ。クンを傷つけることになるもの。クンはね、あなたに相当本気なのよ」

「え、なに俺フラれたの?この俺が?うわっ、生まれて初めてだ。ショックー」

苦い顔をしながら何度も髪をかき上げる。これではっきりした事は、彼は自分の顔に自信のある浮気男だということだ。服装も長髪もかっこいいことを彼は自分でわかっている。だから簡単に女を口説く。またそれも慣れた感じで話すから、多分”彼女”と呼ぶ人はたくさんいるのだろう。

クンが戻ってきた。すると彼は態度が急変し、笑顔でクンと肩を組んだ。

「遅いじゃないか。お前がいないからみなさんと話づらくて困ってたんだぞ」

ごめんねぇ、とクンが笑顔で謝る。みんな完全にひきつっていた。なにこの男、クンよ目を覚まして!

次の日イエン達はもちろん、クンに彼の本性を伝えたが、クンは全く聞く耳を持たなかった。

「またまたー、冗談でしょ。あ、彼から電話だわ!さっき話したばかりなのに。ウフフ」

もう完ぺきに彼にハマってる。彼のいい所も悪い所も全部大好き!彼のためならどんな事でもするわ!

 それからである。みんながクンの話をまともに聞かなくなったのは・・・

でも心配はしていた。恋で理性を失わないように、怒らずに仕事をひっぱってあげていた。それから数日後に日本ツアーが開始。みんなしばらく会わなければ、少しは冷めてくれるのではないかと期待した。

ところが、離れれば離れるほどクンの恋心は燃えていく。最初のころ国際電話のやりとりは毎日だった。

「彼ったら電話の時間を指定してくるのよ。できないなら明日から手紙にしろって。きっと仕事忙しいのね」

・・・違うと思う。ただ遊び歩いているだけでしょうきっと。それでもクンは全く疑わない。バオが聞いた。

「ねージェンナン。クンはあれでいいの?ほんとに」

「人の恋愛を止める権利は私達にはないわ。本人の好きなようにさせましょ。大体今の彼女にはなに言っても無駄よ。いい恋か悪い恋かなんて、自分の心が傷ついた時にしかわからないものだもの」

 ある地方到着。駅の前の大きな桜の木には花がちらちら咲いているし、春の陽気はポカポカ暖かい。

「この桜、もうすぐ満開になりそうね。はぁ・・・彼と手をつないで一緒に見たいわ」

クンが花を見上げて目を細める。隣にいたイエンはやれやれといった表情で少し笑ってクンを見た。

相手は遊び人と知らずに恋をしてるクン。バカねと思うが、その想いはとても純粋でけなげなものだった。

「早く会えるといいわね。この木にお願いしてみたら?」

ニコッとしてクンは両手を組んで目をつぶった。・・早く彼の笑顔が見れますように・・。すると風が吹いた。

 ホテルについて荷物を降ろし、いつものようにみんなで買い物に出かけた。歩いて大きな橋を渡った時、前から大きなかばんを持った背の高い男が歩いてきた。その人はよく見ると・・・クンの彼だった!

「えっ・・ヨウケイ?・・・ほんとよね夢じゃないのよね!わぁ、ヨウケイだわ、ヨウケイ!」

クンが駆け寄る。メンバーは立ち止まった。なんで?ここは日本なのに。呼ばれたヨウケイも驚いていた。

「まさか先にこっちと会うとは・・・おぉクン!元気だったか?会いたかったぞ!」

「私もよ!すごい会いたかった!寂しくて夜も眠れなかったのよ」

ゆうべは1番最初に寝たじゃない、みんなそう思ったが黙ってた。2人に近づきシュアンが聞いた。

「お久しぶりです。どうして日本にいるの?」

「いや・・・日本に留学してる友達がさ、休みに入ったから遊びに来いって言うんで。丁度クンもいるし行ってみるかと思って。俺日本は何回か来たことあるから慣れてんだ」

「そっかー。嬉しいわ!私に会いに来てくれるなんて。時間ある?一緒にお買い物にいきましょうよ!」

クンはもう満面の笑みだった。でも彼は口だけ笑ってるという感じだった。彼は駅のロッカーに荷物を預け、クン達と一緒に街に出た。メンバーのみんなは、なんだかお邪魔な気がして少し戸惑っていた。

「この服かっこいいなぁ。でも買えないんだよな・・・・」

「どうして?高いの?」

「実は俺、空港で財布落としたみたいで何にもないんだよね。だから友達の家に行って金借りようと思ってたんだ。このまま一文無しじゃ中国に帰れないしさ。悪いなクン、少しの間俺を助けてくれるか?」

「もちろんよ!ヨウケイのためなら何でもするわ。これ欲しいのね、買ってあげる!」

それから彼の”欲しいもの”はどんどん増えていった。

「このジーパンかっこいいな・・・ちょっと履いてみるわ。似合うと思ったら買ってくれ」

「うん!あなたならなんでも似合うわよ」

試着してポーズを決めてる彼に拍手するクン。もうすでにたくさん買っていた。洋服や靴や時計やらと高いものを次々買っていく。クンの物は1つもない。それでもクンは何も言わずずっと笑顔だった。

「全くもう、2人には付き合いきれないわ。クン、私達違うところ行くわ。時間までにはホテルに戻るのよ」

ジェンナンの言葉にクンは「わかったわ」の一言だけだった。今は完全に彼以外は見えていない。

「クン、俺には妹がいるんだ。おみやげあげたいからさ、どんなのがいいか見てくれないか?」

はいと言ってクンはオシャレなジャケットとブランドのバックを買ってあげた。かなり高額だったが彼のためだ。

「ありがとう、嬉しいよ。おっ、もうこんな時間だ。お前はそろそろ戻ったほうがいいんじゃないか?」

「あーんもっと居たかったのに・・・あ、お友達の家ここから遠いの?タクシー代いくらいるかしら?」

遠いというとクンはたっぷりあげた。これでもうお財布の中身は空に近くなってしまった。でも彼のため・・・

 クンはルンルン気分でホテルに戻った。会場に行くバスの中で、みんなに今日買ってあげた物を言った。

「うわーそれすごすぎ!たった数時間でそんな額なんて使ったことないわ。この先どうするのよ?」

個人的にマネージャーから借りると言うクン。笑顔で話す彼女の後ろでジンジンが小声で数人に言う。

「ねぇおかしくない?空港でお財布なくしたならどうやって電車に乗ってここまで来たの?ロッカーも使って」

 その頃ヨウケイは日本に住んでいる”彼女”の部屋にいた。友達なんでうそである。

「会いたかったよイーリン。仕事は順調かい?これ、こっちに来てすぐ買ったんだ。プレゼントさ!」

「ありがとう。アハ、春物ジャケット欲しかったの。このブランドのバック高かったでしょう!お金大丈夫?」

「平気さ。俺、お前のために一生懸命働いて稼いでたんだ。だから何でも欲しいもの言ってくれよ」

「ヨウケイ・・・遠距離じゃなかったら私達結婚できるのにね。欲しいもの?ウーンそうねぇ・・・」

 その夜の公演中のクンの笑顔はとても人気があった。恋愛中の女の子ほどかわいいものはない。

「俺の友達がさ、欲しいものあるって言うんだ」

ヨウケイがクンを見て言う。今日は昼・夜の公演だから午前中のちょっとの時間しか一緒にいられないと伝えたら、即そう言われた。寂しいわ、私は買い物の話より、甘い話をしてベタベタしたかったのに・・

「今お世話になってるからどうしてもお礼がしたくてさ。頼む買ってくれ。DVDプレーヤーなんだ」

はぁ!?とクンは驚いたが彼が「俺の頼みだぞ」と言って肩を組んできた。それにデレッとなりクンは承諾。2人で電気屋に行った。種類豊富で迷ったが結局、持ち運び可能の液晶テレビ型プレーヤーにした。

「金額は6万円ちょっとだって。悪いな、高いが払ってくれるよな」

クンは少し焦っていた。同行マネージャーが日本の銀行に口座を持ってるからどうにか大金を借りれたが、帰ったら返さなくては・・・今回日本でいつもの倍のお金を使っていた。少々もったいない気がする。

買うともう戻る時間だった。クンは明日はここを離れる、でも会いに行くわと言って別れた。

 公演会場に行くバスの中。メンバーは全員クンにあきれ、そして怒った。

「バカじゃないの!いい加減にしなさいよ!いつまで彼のお財布係やってるのよ!」

ジンジンが怒鳴った。クンはムッとして「これが愛よ」と言い返す。でも誰も同意しなかった。

「私は彼が好き、彼も私が好き。彼の望みを叶えてあげることが私の愛なのよ!」

だめだ。完全に利用されているということに気付いていない。みんなが説得したが通じなかった。

バスから降りるとクンが1人で先に行ってしまった。みんな集まって歩きながらコソコソ話す。

「クンには悪いけど、別れさせよう。あのままじゃクンの身がもたないわ」

「そうね、もし捨てられたらあの子きっとひどいことになるわ。その前に冷めてもらわなきゃ」

「でもどうやって?みんな個人的に説得するの?」

 昼の公演が始まった。クンの演奏はバッチリ、笑顔も輝いていた。居るはずないのに彼を探してしまう。

ヨウケイ、あなたのためなら何でもするよ。次は何が欲しい?みんなに怒られたって絶対離さないわ!

公演を終えた後、着替えの時ビンチュイが話しかけてきた。

「クン、私最近悩んでいることがあるの。あなたと同じで、恋をしているのよ」

「うそ!知らなかったわ。ね、どんな人?」

「それがね、私のファンの日本人よ。今日も来てた、あなたも握手してたのよ」

「えー!ほんと?ファンの人か・・・それは悩むわよね、簡単に声かけられないもんね」

「ええ、時間をかけて1人にしぼってしまった。・・・モテる人ってこうして選ぶのね」

ピクッとクンが反応した。・・・前にヨウケイが言ってた「俺はモテるんだ」。なのに簡単に私を選んだ・・

 終わってみんなを待っていたらソンメイが寄ってきた。少しおどおどしてるのはなぜだろう。

「あのね、クン。好きな人にみつぐって事は、あんまりいい事じゃないのよ。まぁ私も過去にあるけど・・」

と言って説教し始めた。クンは聞きながらフッと笑った。

堂々としてないのは、自分はどうなんだと聞かれたらあまり答えられないからでしょう。女の子は過去の自分の恋愛経験を、話せる子と話したがらない子がいるのよね。ソンメイは多分後者なんだわ。

「わかったわソンメイ。ちゃんと聞いたからもう行って。あなたに怒りたくないの」

そう・・・と言って離れて行った。みんなでそれぞれ説得させる気かしら?悪いけど私は別れないわよ。

「クン、あなたに会いたいって人が来てるわよ」

ユエンに言われて廊下に出た。すると1人の若い男性が立っていた。彼は上手に中国語で話してきた。

「クンさん。初めまして、俺は真中って言います。会場スタッフやってます。気づきませんでした?突然ですが、あなたを好きになりました!お願いします、俺と付き合ってください!」

「はい?なんですか急に。そんな、困ります。私には彼がいますので」

「じゃあその人と別れてください!俺はもうあなたに決めました。絶対諦めません!」

「困ります!無理ですったら、無理です!」

はっきりと断ったのに「諦めません!」と言って行ってしまった。なんなのよ急に、迷惑だわ。スタッフなのをいいことに告白してくるなんて。・・・まぁちょっとかっこいい人だったけど。ダメダメ、私にはヨウケイだけ。

部屋に戻ると急にイエンに「ちょっと来て!」と引っ張られた。隅に行くとイエンはかなり怒った顔で

「彼に何を言ったの?あの人私の彼なのよ!好きな人ができたって言われたけどまさかクンだなんて!」

「知らないわよそんな事!向こうが勝手に言い寄ってきたんだから」

「じゃあなによ、あなたより私のほうが魅力的なのよって言いたいの?いい気にならないでよ!」

「そんな事言ってないわよ!大体、彼氏が浮気するのは彼女がしっかりしないからでしょ!」

「もうやめなさい二人とも!騒がしい」

ジェンナンが止めに入った。イエンはフン!と言って行ってしまった。急に怒鳴られたクンは面白くない。

「なによ、ちょっと浮気されたからって。・・・・・ヨウケイ、大丈夫だよね?」

少し不安になった。すぐには連絡がとれないここでは監視のしようがない。そこへリーチュンがきた。

「今のケンカで言おうか迷ったんだけど・・・伝えとくね。気付いてた?さっきの公演にクンの彼来てたね」

「えっ!?ほんとなの?私探したのに気付かなかったー!ヨウケイ・・・嬉しい」

「握手会始まる前にチラッと見えたの。ただね・・・・・・・・女の子と一緒だったよ」

クンが凍りついた。たった今、不安が現実になったのだ。・・いや、そんなはずない。そんな人じゃない!

「ウソでしょ?でなきゃ人違いよ。彼は今日の公演は行けないって言ってたし・・・違うわ、うん」

目を泳がせて言うクン。信じない、絶対信じない。ヨウケイの好きな人は私だけのはずだから。

「クン、大丈夫?怒られて可哀そうに・・・」

シュアンが心配そうに寄ってきた。クンは力なく椅子に座るとシュアンも座った。リーチュンはさっと離れる。

「なんだか・・・急にいっぺんにいろんな事が押し寄せてきてさ。疲れちゃう」

「そうだね、かわいそうに。・・・ねぇクン、辛い時や悲しい時は私に甘えていいのよ」

そう言ってシュアンはクンの髪を優しくなでた。クンは何気なくシュアンを見ると、少し変なことに気付く。

「シュアン?どうしたの?なんか目が潤んでるけど・・・」

「・・・・クン。私じゃだめ?私ずっと密かにクンのこと・・・・」

は?は?何言ってるの急に?ちょっ、ちょっと待ってシュアン。目が潤んでるというより泣きそうよ!

「あ、あのさ、私今はヨウケイのことしか考えられないから!ごめん」

慌てて立ってしまった。するとその目線の先で、ジンジンが不機嫌な顔でツメをかんでこっちを見てる。

なんなのよ、なんなのよみんな!おかしいわ、絶対おかしい。私どうなっちゃうの??

「もうなんなのよーなんなのよ!ヨウケイ、会いたいよ、会いたい・・・」

ホテルに戻ってからもクンは落ち着かなかった。同室のユエンが心配して言う。

「クン、私の個人的な考えかもしれないけど、人の行動にはそれぞれ意味があると思うの。その人本人のためなのか、誰かのための行動なのか、少しよく考えてみてもいいんじゃないかしら?」

クンは考えた。恋の相談、彼の浮気、友達の彼からの告白、仲間からの想い。みんな誰のためなの?

 次の日の午前、次の公演の地に行くために楽坊は駅前でバスを降りた。

「素敵!桜の花がとてもきれいだわ。これが満開かしら?」

クンが駅前中央の大きな桜の木に近づこうとした時、バオが慌てて後ろのみんなに小声で叫んだ。

『大変!クンの彼がいるよ、あそこに!まずいよ・・・シュアンお願い!』

バオのかすんだ声に気付いたシュアンはすぐにクンの横に行き話かけた。

「クン。ねぇ、少しは私のことを考えてくれた?本気なのよ」

「えっ、いや・・・そう言われても困るのよね・・・ホラ私いま好きな人がいるからさ」

「ちょっとクンー!私のシュアンを取らないでくれるぅ?」

ジンジンがやってきて二人でクンを挟んだ。じゃれながら言ってくるからこれは遊びなの?と思ってきた。

クンが二人に絡まれて駅へ歩いていくのを他のメンバーは後ろから見ていた。そしてチラチラと、桜の木の向こう側にいるヨウケイを見た。彼女と手をつないで桜を見て笑っている。クンがしたかった事だ・・・。

「ねぇレイちゃん、あの人やっぱり彼女いたね」

「そうだねリーチュン。まさか私達の作り話が本当になっちゃうとはね」

公演会場で見たというのは二人のウソ話だ。でもあれを見たらまんざらありえない話ではないと思った。

「危なかった。今クンが彼に会ったら、私達のやってることが全部水の泡になるとこだったわ」

みんなでクンの視線をごまかして良かった。もし見てしまったらクンはこの場でひどく泣き叫んだだろう。

「クンさん、はいこれプレゼントです!受け取ってください」

真中に強引に渡された。もうこれで3つ目である。いらないよと言いながらもクンはつき返しはしなかった。

あれから2日後の夜。公演が終わり、ホテルの1室の前で、真中に呼び出され廊下で話していた。

ヨウケイと会えなくなって寂しがるクンにとって、真中はいい支えになっていた。イエンの彼だとわかっているが、彼の気持ちは自分にある。断りつつも迷惑だという気持ちはなくなり、今は少しだけ楽しんでいた。

「ハハハ。じゃあクンさん、次はなにが欲しいですか?何でも買ってあげますよ!」

ズキュン・・・クンの心が痛くなった。今のセリフはクンがヨウケイにいつも言っていた言葉だ。ヨウケイ・・・

クンはうつむいてそのまま部屋に入ってしまった。部屋にはメンバー全員がいた。みんなクンに注目する。

「またプレゼント?好かれてるわねーラブラブじゃない!付き合っちゃえばいいのに」

イエンが皮肉まじりに言う。彼女も落ち着いてきたが、内心はクンに嫉妬してる。クンは首を横に振った。

「だめよ、それは出来ないわ。私が好きなのはヨウケイだもん。真中君には悪いけど・・・」

「これだけおいしい思いさせてもらっときながらフルの?もっと現実を見て冷静に考えたら!」

イエンは部屋を出ていってしまった。続けてティンとジンも部屋を出る。すれ違う時二人に一言いわれた。

「ヨウケイって男は、やめたほうがいいよ」

私が年下にアドバイスされるなんて!いつもならありがたいが、今のクンには腹立たしいものだった。

 しばらくしてみんながそれぞれ部屋に戻ると、同室のビンチュイが「彼から連絡は?」と聞いてきた。

クンはまた横に振る。声が聞けなくなると1日が長い。これから泊まるホテルや公演会場の住所や電話番号などは全部教えてある。連絡をとろうと思えばとれるのに、何にも音沙汰ない。悲しい、寂しい・・

「クン・・・私好きな人にそろそろ声をかけてみようと思うの。クンも、もうはっきりさせてみたら?」

「なっ、何を言ってるのよビンチュイ!はっきりもなにも正式に付き合ってるのに。そうよ・・・正式に・・」

だんだん小声になる。ビンチュイはじっとクンを見た。・・・女の子と歩いていた、このことがずっと気になっていた。ヨウケイ・・私の事嫌いになったの?欲しいものが無くなったの?私はもう用なしなの・・・?

違う!違う違う違う違う!そんなはずない、彼には私がいなきゃだめなのよ!だからヨウケイ、愛してる!

それから3日たった。ヨウケイからは何も連絡がない。クンはもう限界だった。

ある地方での夕方。みんなで出かけ終え、ホテルに戻りみんなで中庭に出られる1室に集まっていた。

「もういやだ!いやだ!ヨウケイに会いたい!寂しくて死にそうなの!」

クンは泣きながらみんなに訴える。シュアンが背中をさするが止まらなかった。そこへ真中が来た。

「クンさん落ち着いてください!僕がいるじゃないですか!そんな男のことはもう忘れてください!」

「嫌よ!私はあの人がいなきゃだめなの!だめになるの!」

「そんな事ない、だって今こうして元気に過ごしているじゃないですか!大丈夫、大丈夫ですから」

真中の説得にクンはますます泣けてきた。みんな黙ってみており、シュアンはクンから離れた。

「僕はあなたが好きです!あなたのためなら何でもできる、あなたが喜ぶなら何でも買ってあげる!あなたの望みを叶えてあげることが僕の愛です!誰に何を言われても絶対に離さない!」

クンは両手で耳をふさいだ。やめて、やめて、それは全部私がヨウケイに送った特別な想いの言葉!

「クン!もうわかってるんでしょう?ヨウケイはあなたを愛してはいないってことを!」

「やめてー!!」

シュアンの言葉にクンは叫んだ。シュアンは傷つけているのではない、クンが好きだから言ってるのだ。

「彼はクンが欲しいんじゃない、クンのお金が欲しいのよ。それを気づいていたんでしょう?でもクンは彼を好きだから、言うこときいてあげないと離れていっちゃいそうだから、それが怖かったんでしょう?」

「違う違う!彼は私に好きだって言ってくれたもん!」

「フラレたくないから、だから何でもきいていた。自分を好きじゃなくてもいいからそばに居てほしかった、そうなんでしょう?もうよしなよクン!それは愛じゃない。つなぎとめるものはお金なんて先が見えてるよ」

「イヤー!!もうやめて!!」

クンがコップを窓に投げつけた。・・・ガッシャーン!!と大きな音を立てて窓ガラスが割れた。みんなとっさに手で顔を隠した。ガラスの破片が飛び散ったのだ。クンはますます乱狂し、部屋を飛び出した。

「みんな怪我はない?大丈夫?誰か、誰でもいいからクンを追いかけて!」

ジャンナンがみんなを見渡し言う。シュアンはジンジンの手を引き「私達が行くわ」と走って行った。

「どうしたんですか!あっ、ガラスが割れてる・・・お客様!お怪我はありませんか?」

そして従業員が集まる。みんな事の重大さよりも、クンがあの状態で外に飛び出した事が心配だった。

クンは走っていた。もうわけもわからず走っていた。

「ハァハァ・・ヨウケイ・・いま行くから、会いに行くから・・・待ってて・・・」

彼がどこにいるのかもわからないのに呟いてるクン。もう狂ってる。シュアンとジンジンは追いかけていた。

「待ってークン!ハァハァ・・・ねぇ、クンってあんなに足速かったっけ?追いつけないよ!」

しばらくして3人は桜木公園の横を通っていた。ここは毎年お花見客で賑わう大きな公園だ。薄暗くなりかけている今の時間まだ人は集まっていない。公園を右側に走っていたら、突然クンが立ち止まった。

「ヨウケイ?・・・・やっぱりヨウケイだわ!ヨウケイ!私よ!」

左側の道路の向こうにヨウケイがこっちに渡ろうとして立っていた。・・・神様は無情だ、こんな時に恋の奇跡というものを起こすなんて!ヨウケイがなぜこの街にいるのだろう、シュアン達が信じられないと言った顔でいる。ヨウケイはクンの声が聞こえなかったのか、気付いていない。うわの空だった。

ヨウケイが車の通ってない道路を横断しようと飛び出した時、左から右折してきたバイクが走ってきた!

一瞬クンは声が出なかった。キーッ!と言う音と共にヨウケイの体が倒れバイクに引きずられたのである。

「ギャア!!!・・・・・痛い、痛てよぉ!痛てよぉ!!死にたくねぇよ!」

しっかり声が出せているのだから死にはしないのに、彼はあまりの痛さに倒れながら左腕を抑えて叫んだ。

「キャアァァ!ヨウケイ!しっかりして!死んじゃイヤ!ヨウケイ!ヨウケイ!しっかりして!」

「痛てよぉ!痛てよぉ!死にたくねぇよ!イーリン!!」

・・・・クンの世界が止まった。ヨウケイは横にいるのがクンとは気付かず、ひたすら彼女の名を呼んだ。

「イーリン!イーリン!俺死にたくないよ、好きなんだ、愛してるんだ。イーリン、助けてくれよ!イーリン」

クンは声を出さずに口を抑えて泣いていた。今目の前で倒れている人は、自分を愛していないんだ・・・

何事かと道行く人々が寄って来た。バイク運転手も倒れて苦しんでいる。誰かが救急車を呼んていた。

クンは道路にべったり座って泣いていた。なぐさめるように、桜の花びらがゆっくりと風に舞い落ちてきた・・

「ちょっと荒治療だったかしら」

ジェンナンが言った。ここはホテルのクンとユエンの部屋。みんな集まっていた。

クンはベットで寝ていた。帰ってきてすぐ壁に向かって横になったので誰も泣き顔はよく見れなかった。

「それで、どうなったの?ヨウケイは」とビンチュイが聞くと、シュアンは軽くため息をついてから話した。

「もちろん運ばれたよ。でも声は出せてたしバイクも右折してすぐだったからスピードは出てないし大丈夫だと思う。救急車がくるまでの間に、1人の女性が駆け寄ってきたの。彼の名前を泣き顔で叫んでた」

「彼女がまたいい人でね。応急処置を始めたの。クンを見ても疑わずにハンカチ貸してっていうから私らが代わりに貸したの。あの人が彼の本命の彼女なのね。多分2人でお花見に来てたんじゃないかな」

あそこの公園は有名だから、と言い終わると部屋がシンとなった。クンにはタブルで辛いものだったろう。

「そうか・・・悪いけど事故は天罰じゃない?クンを利用したんだから。別れさせ作戦は成功かな?」

「事故は予想外だったけど他はね。だってほんとのところ真中君はイエンの彼じゃないんでしょう?」

「違うわ。でも私が前から気に入ってたのは事実よ。だから途中演技を忘れて本気で嫉妬しちゃった」

「恋多き女・・・。真中さんが協力してくれて良かった。シュアンの想いももちろん全部演技でしょ?」

「そうだよ。でもまぁ・・・まんざらウソでもないけどねっ」

ジンジンがキッとした顔で見た。シュアンはふくみ笑いで斜め上目線。みんなは苦笑した。

「みんなそれぞれ心の惑わさせ方が違ってクンは困ったでしょうね。でもなんとかヨウケイ以外のことに夢中になって欲しかった。あのまま何もなかったら、きっと完全に自分を見失ってたわ。心配だった」

「私彼のためなら楽坊をやめてもいいってサラッと言ってたもんね。ハァー恋って怖いなぁ」

「そうよティンちゃん。それとそこの燃えるような恋の未経験グループ、勉強になったかしら?」

ティン、ジン、バオ、ビンチュイの妹グループはギクッとした。実は今回のクンを見て少しひいていたのだ。

「恋はしていいの。でも何もかもどうでもよくなるような恋はして欲しくないの。私達は有名人なのよ!恋で身を滅ぼしたなんて知られたらファンはどれだけ悲しむか。残念だけど、悪い恋だとわかったら強引にでもそれに気付かせるからね。それが人気者の宿命なのよ、普通の女の子とは違う。わかった?」

・・・クンは密かに起きていた。ジェンナンのこの教えは前にも聞いたが、今やっと意味を理解できた。

 次の日、クンは目が腫れていた。一晩中泣いていたんだろう。

「クン・・・大丈夫?今日の公演・・・出れる?」

クンは無言でうなずいた。でもそれだけで何も表情がなかった。ユエンはこのことをみんなに伝えると、みんな気を使って誰も話しかけなかった。クンは励まされると余計辛くなるタイプと知っているから。

クンの失恋の傷は相当なものですっかり元気がなくなった。心にぽっかり穴が開いた感じだった。

もちろん、公演中は別である。ちゃんと笑顔で弾けて、トークも明るく言えた。一生懸命笑った。

 その地での公演が終了し、クンは楽屋で窓を開け夜風にあたっていた。そして夜景を見ながら呟いた。

「・・・あの桜が見たい。あの駅前の大きな桜の木。あれが見たいの。・・・明日連れてって」

と言うので次の日、上の人に頼んで自由時間を増やしてもらい、電車で前行った地方にまた行った。

駅前の桜の花はもう散りかけていた。地面に桜の花びらが散らばっている。クンは近くに行き目を閉じた。

私の恋は、桜に似ている。咲いてる時はとても美しいのに後に必ず散ることになる。わかっていた、彼は自分に本気じゃない事。でも離したくなかった。いつかきっと、私だけを好きになってくれる時を信じていた。

「・・・・さよなら、ヨウケイ・・・・愛してた・・・」

すると強い風が吹き花びらが舞い上がった。クンは桜の花びらに包まれとても綺麗な姿で泣いていた。

「散る花がこんなにきれいだと思うのは正直初めてよ。クン、桜に免じて私達はもうあなたを責めないわ」

今回いろいろあった。割れたガラスの弁償と謝罪、全員で頭を下げた。元気がないせいでスタッフから評判悪くなっていたのをみんなでカバーした。クンの前では恋の話をしないように心がけた。大変だった。

「みんな、手をつないで桜を囲もう。丸くはならないけど。一斉に桜に誓おう!ラスト公演成功!って」

バオの提案でみんなで手をつないだ。そして静かに舞う花びらを見つめ、最終公演の成功を願った。

クンはまた彼の事を想った。あなたは私を忘れるかもしれない、でも私は一生忘れない。きっと。

・・・誰も信じてくれないかもしれないけど・・・あれでも・・私は本気で・・・彼の事を・・・

桜は止まらなく舞い落ちる。涙も止まらない。恋も花びらも、散っても変わらず美しい・・・

  • 2005/03/31~04/18
  • written by りょう


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