朝起きると・・・・なにか変だった。
マー・ジンジンは目をこすりながら隣のベットを見る。誰もいない、いつもいるはずのシュアンがいない。
先に起きたんだと思ってあくびをすると、ジェンナンが「おはよう」と顔を拭きながら来たのでびっくりした。
「えーなんでジェンナンがここにいるの!?」
「なんでって、私達大抵いつも同室じゃない。ここはホテルよ。寝ぼけてるのね、ソンメイったら」
「は??」ジンジンが怪訝な顔をする。ジェンナンは真顔でまた顔を拭いた。
「なに言ってるのジェンナン。ソンメイがここにいるの?」
「はぁ?ソンメイはあなたでしょう。ちょっともう、いい加減目を覚ましなさいよ」
え?え?ジンジンはわけがわからない。でも気付いた、パジャマが違う、自分のじゃない。何これ!と思って洗面所に走った。すると鏡を見て「キャー!!」と悲鳴をあげた。鏡の中の顔はソンメイだった!
「えっ、何、一体?これは夢?私がソンメイになっちゃった!・・・てことは、私の体は・・・」
「びっくりした、どうしたのソンメイ?何か怖い夢でも見たの?・・・あっ、ちょっと!」
ジェンナンの言葉を無視してジンジンは部屋を飛び出して自分の部屋に行ってみた。シュアンが出た。
「おはようシュアン!ソンメイいる?」
「えっ、自分じゃん」
「あ・・・いや、ジンジンいる?か。もうとにかく!部屋入るわよ」
入ってすぐベットを見ると、ジンジンは身震いした。自分が寝ているのである。こわっ!映画の世界だ。
「ん・・・ファ~ア・・。おはよう・・・私?へっ?あなた誰?あ、パジャマが違う!」
ジンジンが洗面所にひっぱるとソンメイが「キャア!」と小さく声をあげた。自分の顔がジンジンだった。
「何これ!夢?ほっぺつねってみて!・・・・イタタタ。夢じゃないのね」
「私達、心と体が入れ替わっちゃったみたい。すごいよね!映画がマンガの世界じゃない?怖いわねぇ」
「ほんとよね。非現実だわ、ありえないわ。でも、こんな不思議なこともあるのねー。世の中って変」
のんきな二人だった。ひどく怖ろしいなんて気持ちではなく、どうしよっかねーな感じで頬に手をあてる。
「二人とも何やってるの?秘密のお話?私もまぜて!」
シュアンがジンジンの背中に飛びついた。体はジンジンでも中身はソンメイである。ジンジンはニヤついた。
『これ案外面白いかも・・・ひょっとしたら楽しい感じにイケるんじゃないかしら』
「シュアン、あのね実は私達・・」
「同じ夢を見たの!もうびっくりしちゃったわ。シュアンは今日いい夢みた?」
え?と不思議そうにジンジンを見るソンメイ。自分の顔のジンジンは目くばせをした。
「エー!すごいね、そんな偶然があるんだぁ。私の夢?もちろんジンジンが出てきたよ、楽しかったわ!」
シュアンが朝シャンを始めるとジンジンとソンメイはベットに座って話し合った。
「ね、お願いソンメイ。このままみんなに内緒にしようよ!だってさ、たいして問題ないじゃない。楽坊は1年中ほとんど毎日一緒にいるんだし、担当楽器は揚琴と共通してるし、女同士だし不自由ないよ」
「そうだけど・・・みんなをダマすことになるのよ。心苦しいわ」
「そのうち慣れるって。バレたら白状して謝ればいいんだし。大体なりたくてなったわけじゃないんだからさ」
「そうよね、自然な変身なのよね。・・・なっちゃったものはしょうがないか!いいわよ」
「やった!なんか面白くなりそう!」
二人とも楽観主義だ。右手をパチンと手を叩き合い「よろしく」で秘密成立。ジンジンは部屋に戻る。
「ソンメイ大丈夫?顔も洗わないで部屋を飛び出したから心配してたのよ」
「ありがとうジェンナン。ちょっとジンジンに用事があって。顔洗うわね。えっと・・私のバックどこだっけ?」
今中国ツアー中なのでしばらく実家には帰れない、それがラッキーだった。朝食時、みんなが集まる。
「なんか・・ソンメイ食欲あるね。めずらしい。ねぇ、後でちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「フフ、どうしたのクン。いいよ、なんでも私に話して!恋の相談?仕事の悩み?なにかしら!」
「・・・なんか、ソンメイいつもよりテンション高いわね。そっちこそ何かあったの?」
おっと危ない危ない、はしゃいじゃった。ソンメイはこういう時なんて言うんだろう。ちらっと向こうを見る。
「ジンジン今日はニコニコだね。なんかいい夢でもみたの?教えてよー。夢占いしてあげる」
ティンとバオに挟まれて楽しそうに話す自分の姿。へぇ、私もなかなか可愛いじゃない。改めて知ったわ。
「ソンメイ!なにボーッとしてるのよ。やっぱり今日なんか変よ」
いきなりバレそうになるジンジン。私って意外にも下手なのね、と冷や汗をかいておしゃべりでごまかす。
ご飯が終わり自由時間になった。といっても移動バスが来るまでの小一時間程度だが。クンが来た。
「ほんとごめんねソンメイ、いつも聞いてもらっちゃって」
「いいのよ、気にしないで」と言ったが実はこの時点でジンジンは嫌な予感がしていたのだ。いつも・・?
「でね、こないだの話なんだけどさー」
やっぱり!予感的中。顔がひきつった。”あの話””例の件””こないだの事”など言われても分かる訳がない!私は別人で、何も知らないのだから。でも何の話?と聞くと疑われてしまうし・・・困ったわ!
「私やっぱりやめようかと思って・・・だって騒がれたら大変だしね」
「あぁ・・そうなんだ・・・それがいい・・かもね・・・ね?」
多分、と小声で付け足した。なんの事?何をやめるんだろう。まぁいいや、とにかく話は合わせておこう。
「やっぱり?うーん・・・これはチャンスと思ったんだけどね。やっぱダメか・・・ハァ」
クンがため息をついた。なんだかこれ以上適当に答えるのはまずい気がしてきた。申し訳ないと言うか。
「・・でも、もうちょっと考えてみたら?せっかくのチャンスだしさ。ね!」
「でしょ!私もそう思ったんだ!だってね、こんな偶然めったにあるわけじゃないしね。それに・・・」
いろいろと理由を話してきた。なんとなくつかめてきたかな、誰かとスケジュールが一緒らしい。誰だろ?
「もうちょっと考えてみるね!ありがとうソンメイ!」
そう言うと笑顔で走って行った。ジンジンは1人になった後フゥーと大きく息をはいた。なんとか乗りきった!
「ねぇ、ジンジン」
はい?と振り返って慌てた。違う!いつの間にかソンメイが隣にいて一緒に振り返っていた。レイが困る。
「いや・・私ジンジンを呼んだんだけど・・・なにも二人で振り返らなくても・・なぜソンメイ?」
ソンメイとジンジンは顔を見合わせて「ハッ、ハハ・・」と乾いた笑いをした。まだ慣れてない私でした。
「ソンメイちょっと来て」
急にジェンナンが現れ腕をグイッと引っ張られた。今度は何よ?ひょっとして、今のでバレた?
「ソンメイ私ね・・・やっぱり始めることにしたの。大丈夫かな?」
ジェンナンが私の両肩をつかんで心配そうな顔を近づけてきた。なんだ、バレたんじゃなかったのね。
「始めるって・・・何を?って聞いたかな・・・?」
「言ったじゃない!あの人とよ。だってあんな偶然が続いたら、誰でもなにかを感じてしまうじゃない・・」
また偶然で悩む相談なのね。どうしてソンメイの周りってこんなシビアな話が多いの?つまんない。
軽くため息をついたがちゃんと話を聞いてあげた。ジェンナンは自分の思ってる事を言えば気がすむタイプだから、適当なアドバイスを言わなくてすんだ。話が終わった後、ジンジンはソンメイの所へ駆けつけた。
「ちょっと!ソン・・じゃなかったジンジンを借りるわよ!」
レイが止める前に強引に自分の腕(ソンメイ)をひっぱって行った。最近やせたからとても軽く感じるわ。
「なんかつまんないんだけど!せっかく入れ替わったのに!真面目な話ばっかでさ」
「そんな事言われても・・・私はそう思わないわ。ジンジンの周りってみんな集まってくるから楽しいのね」
「なんでこんな差があるのよ、もう。私やめるわ。ソンメイ演じるのやめる!顔関係なく私らしくいるわ」
ゲッ!と嫌な顔をするソンメイ。ジンジンが私らしくって・・・要は自由奔放主義になるってことだ。
それから数時間後、ジンジンの顔したソンメイは大はしゃぎ!買い物の時。
「あーあれかわいい!これも!ねー誰か買ってよ、キャハ。あ、あれ見て見て!」
次から次へとかわいい洋服に手をつけていくソンメイ。ジンジンのいつものことだ。でもソンメイには迷惑。
「もう落ち着いて!もっと協調性をもってよー。1人で勝手に動かないでさ」
「・・・なんかソンメイは落ち着かないし、ジンジンは冷静だし。どうしちゃったのあの二人?」
みんなが「?」の顔で二人を見比べる。誰も入れ替わったなんて想像もしてないだろう。
公演が終わりその夜のこと。部屋の同室メンバー決めの時、今日の主導権はバオだった。
「私とビンチュイでしょ。ジンジンとシュアンでしょ。レイちゃんとリーチュンでしょ。ソンメイとジェンナンでしょ。ユエンとイエンでしょ。それから・・・」ジンジンが無言になった。ごめんシュアン、今日は離れよう。
数時間後の深夜、シュアンはベットで泣いていた。それにソンメイは気付かずに寝ていた・・・
朝食時間。みんな集まっておはようを交わす。みんな笑顔なのにシュアンだけは元気が無かった。顔をのぞくと目が赤い。どうしたの?と聞くが「何でもない」しか返ってこない。ジンジンは少し不安だった。
午前中、仕事で写真撮影があった。有名な公園に建てられてある記念碑と一緒に集合写真を撮るためである。そこはこのホテルからとても近いので、経費節約のためか歩いて移動することになった。
「ねぇ、ジンジン・・・どうしちゃったの?」
シュアンが寂しそうな表情をしてジンジンを止まらせた。しかし中身はソンメイだ、理由がわからない。
「なに、どうしたの?何かあったの?シュアン。私何かしたかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・もういい、何でもない!」
顔をそむけて走って行ってしまった。どうしよう、シュアンを傷つけてしまったのかな?ジンジンに怒られるわ。
その頃ジンジンも困っていた。相変わらずクンとジェンナンが”例の話”で寄ってくる。ジェンナンなんて
「変な事聞いていい?・・・恋の仕方ってどうだっけ?しばらくご無沙汰だったから。考えちゃうわ」
「はっ?なにそれ変なの。好きだったらその気持ちのままに行動すればいいじゃない。悩むことないわ」
「いやそうではなくて・・・・もう!ソンメイなら私の気持ちわかってくれると思ったのに!あなた変よ」
カチンときた。人が話をきいてあげてるのに変とはなによ!私はソンメイじゃないのに。プイッと横向いて1人で歩く事にした。するとユエンが横にやって来た。
「怒られちゃったね。大丈夫?なんか大変ね、ジンジン」
「ほんとだよーなんだって私がキレられなきゃ・・・・・・・・え?ユエン知ってたの?!」
「やはりそうなのね。言動からしてソンメイじゃないと思ってたわ。今のは一か八かで言ってみたのよ」
すごすぎる!この人にウソはつけないわ、見破られる。こんな現象を一番信じない人と思っていたのに。
「まだ誰にも言わないでね。明日戻れるかもしれないでしょ、気を使わせたくないし。向こう楽しそうだし」
二人で体はジンジンのソンメイを見る。リーチュン達とじゃれあいながら笑って歩く自分の顔。ソンメイがあんなに楽しんでるのならしばらく元に戻ってほしくないと思った。あなたが喜んでるなら私は我慢するよ。
ユエンが「何かあったら協力するわ」と言ってくれた。ジンジンも笑顔になってきた。シュアンが泣いていた
それから3日後。体はまだ戻らない。廊下でソンメイの所にバオが前からドタドタ走ってきた。
「ジンジン!大変なのよ来て!シュアンが大変なの!」
バオに連れられて部屋に入るとみんな居た。そして誰かが泣いていた。シュアンだ。
「いやいやいや!ジンジンじゃなきゃ嫌なの!!」
どうしたの?とビンチュイに聞くと「わからない、答えてくれないの」と言った。シュアンは座ってひざを立てた状態で泣いていた。その泣き方がハンパじゃない。エーンを通り越してウァーン!!と半ば絶叫だった。
「あ、ジンジン来てくれて良かった。どうにかシュアンを泣きやませてほしいの。私達じゃ無理みたい」
イエンが困った顔でジンジンを引っ張る。心はソンメイのジンジンはシュアンの前にしゃがんだ。
「シュアン、どうしたの?私よ、おいで」
と手を広げるとシュアンは飛びついた。「お願い私を助けて!」シュアンは泣きながらいそう言い続けた。
「シュアン・・ヨシヨシ。ほんとにどうしたの?怖いことでもあった?さぁ、もう泣かないで。ワケを話して」
その途端、ドン!と突き飛ばされた。ジンジンの体は「キャア」と尻もちをついた。シュアンが震えてる。
「ハッ・・・違う・・・違う!ジンジンじゃない!あなたはジンジンじゃない!誰?誰なのよー!」
「シュアン!何をするのよ!目の前にいるのはどう見てもジンジンじゃない!」
「違う!ジンジンじゃない!どこ?どこにいるのジンジン?会いたいよ、会いたいよ!どこなのよ・・」
周りを見渡した後また泣き崩れた。ソンメイは座ったまま動かなかった。ショックだった、シュアンに突き飛ばされるなんて初めてだ。そして今の彼女の目に自分が映っていない・・・目の前にいるはずなのに!
ジンジン本人は強く右手を握り締めていた。シュアン、私はここよ。抱きしめてあげたい。もう嫌だ。
「シュアン!私よ、私がジンジンよ!わからない?ソンメイと体が入れ替わっちゃったのよ!信じて、ねぇ」
みんなが驚き顔でジンジンを見た。もうすべてを言うしかないの。ところが今のシュアンには通じなかった。
「いやいやいや!ジンジンじゃない。ジンジンに会いたい!・・ァーン!」
近づいたが拒否された。悲しい・・ここにいるのに。私はここにいるのに。わかってくれないなんて・・・
「シュアン。私よ、ユエンよ。さぁ、私の部屋に行って休みましょうね」
ユエンがシュアンの肩を抱いて立ち上がらせた。シュアンは大人しくなりヒックヒックと喉を鳴らしながら二人は部屋を出て行った。バタンと閉まると空気が重くなった。無言が続く。それを破ったのはクンだった。
「ちょっと、どういうことなの?ジンジンとソンメイが入れ替わったって何?説明しなさいよ!」
彼女は怒っていた。ジェンナンもジッと二人を見てる。誰1人ともまさかぁ、と茶化す人はいなかった。
「ごめん。隠し続ける気はなかったのよ。突然だから私達にも何がなんだかわからなくて。ねぇソンメイ」
「でも教えてよね!だましてたのね!私がソンメイにしか言ってない事をジンジンが聞いていたなんて」
「なによ、ソンメイにばっかり信頼よせて。大体クンの悩みなんていつもたいした事ないじゃない!」
あ!それは言ってはいけない禁断のセリフだ。みんなどうしよーみたいな顔でそおっとクンを見る。
「なっ、なによそれ!私は真剣なのよ!じゃあ悩みを聞くふりをしていつも心の中で笑っていたって事?ひどいわ・・・二人とも大っ嫌い!」
クンは勢いよく部屋を飛び出した。なんとも最悪な展開だ・・・。
残ったメンバーはガラッと雰囲気を変え、ジンジンとソンメイをいじりは始めた。リーチュンは興味津々。
「あなたほんとにジンジンなの?姿はソンメイなのに・・・どれどれ確かめなきゃ。プニー」
「イタタタ・・・ちょっと!ほっぺが伸びるじゃないの!リーチュンったら」
「あ、そのしゃべり方ジンジンだ。すごい!本当なんだね。面白い!私もレイちゃんと入れ替わりたいな」
「ねー、変わってみたいよねリーチュン。でも私達お互いなんでも知ってるからずっとバレないかもよ」
「もう!二人とも他人事だと思って。好きでこんな体になったんじゃないんだからね」
ジンジンの文句をよそにみんなしゃべり始めた。怪奇現象でもこれなら体験したいらしい。
「バオとビンチュイが入れ替わってもわからないかもね。ジンとティンちゃんの学生コンビでも良かったかも」
「イエンとユエンも仲いいよね。あ、でもイエンはいつも誰かに恋しちゃうからすぐ分かられそうね、ハハ」
「バオったら失礼しちゃうわね。でもどうして”いつものコンビ”で入れ替わらなかったのかしら?」
「それよりも、この先どうするの?元に戻って欲しいんだけど」
今まで傍観してたジェンナンがやっと口を開いた。恋の相談をずっと年下のジンジンに話していた事実は、彼女にとってはかなりショックで恥ずかしい・・・でもクンのように怒ったりはしないので大人である。
「私達も困ってるの。どうにか元に戻る方法を考えるわ。それまでシュアンとクンはどうしよう・・・」
「クンはいいとしてシュアンは少し大変かも。でも任せて!私達が説得して受け入れさせるようにするわ」
レイが手を胸にあてて言う。リーチュンも頷き、みんなも「なんとかしてあげる」と言った。ジェンナンも髪をかきあげ、協力するわと言ってくれた。ジンジンとソンメイはホッとした。やはり持つべき物は友達だ!
「ところで~クンの悩みってなんだったの?知らずに聞いてたんだけど」
部屋に戻ってジンジンはこっそりソンメイに聞いてみた。内緒よ、と前置きしてソンメイが説明する。
なんでも3週間後、クンの好きな俳優さんのロケ地と、楽坊の公演地が一緒ということがわかったらしい。
「エー!その俳優さんって結婚して子供いるわよね?クンってけっこうシブイ系が好きだったのね」
40代のベテラン俳優だ。別に深い仲になりたいのではなくて、ファンだからサインをもらって話をしたいという程度だ。マネージャーさん達も交えてお食事をご一緒したいと申し込みたいが、いいだろうかダメだろうか悩んでるというのだ。別にそれくらい問題ないと思う。ジンジンは「ハッ!」と笑った。
クンは少々物事を大げさに考える時がある。『どっちでもいい事』でさえ真剣に悩むからみんな時々呆れて聞かない。だけどソンメイだけはどんな事でも聞いてあげていたのだ。だから怒るのも無理はない。
移動のバスの中、みんな誰かに用があると必ず名前を呼んだ。少々わざとらしいが。
「ビンチュイ!お茶残ってたら頂戴」
「ジン。鏡持ってない?貸してー」
「ジンジン。このメール読んでみて!」
ジンジンの名前が出るたびにシュアンは振り向くが、それを行動する姿がソンメイだとわかると目を伏せる。
隣で支えてるユエンによると、シュアンの頭の中ではジンジンはいなくて、ジンジンの体の中は知らない誰かで、ソンメイはソンメイになっているらしい。だから入れ替えを教えるようにみんな名前を言うのだ。
公演の練習の時も自分は自分のパートを弾いている。揚琴なのでほとんど一緒だが、高音と低音に別れる所は姿を気にせずいつものように弾いている。王さんには理解をもらったがシュアンは「?」だ。
複雑な日々になった。ジェンナンは恋のため息をついてばかりだし、クンは謝ったがまだ許してくれない(しかもまだ迷ってる)。シュアンはやっぱり毎晩泣いている。ユエンはいつも彼女につきっきりだった。
「ソンメイ・・・私やっぱりダメかも。なんか彼と合わない気がするのよね・・・ハァ」
「私が真剣に悩んでいるのに・・・もう。あの二人が元に戻れるかどうかなんてどうでもいいもんネ」
「ねぇ、シュアン。ジンジンじゃなきゃだめってどうしてなのかしら?教えてほしいなぁ」
ユエンの問いにシュアンは口を開いた。同じ頃ジンジンも違う場所で語り始めた。
ーーー数年前、まだ学生だった頃。シュアンは卒業生達の音楽会に来ていた。・・・大好きなママが亡くなって2年近くたつのに、私はまだ毎晩泣いている。立ち直れない。会いたいよ、声が聞きたいよ・・・
「ねぇ、隣に座ってもいいかしら?」
左を向くと小柄で美人な女の子が立っていた。彼女は微笑んで隣の席に座るとシュアンに話しかけた。
「私、マー・ジンジンっていうの。揚琴を習っているのよ。あなたは?」
「私はジャン・シュアンです。琵琶を習っています。どうぞよろしく」
二人は微笑み合うとステージの演奏そっちのけでおしゃべりし始めた。初めて会ったとは思えないくらい気が合った!ジンジンは性格上自分から声はかけない。だが直感は信じる方だ。一目で『あの子と仲良くなれそう』そう思ったから声をかけた。それが正解だった。シュアンは暗い顔から一気に明るくなった。
それから何週間後、ジンジンがシュアンの家にお泊まりしに来た時、夜中に泣き声がして目が覚めた。
「シュアン?どうしたの?大丈夫?」
シュアンは壁側を向いて寝ながら静かに泣いていた。友達の前では我慢したかったのにダメだわ。ママー
「・・・シュアン。泣くのはおやめ。ママはここにいるわよ」
その声はそっと後ろからシュアンを抱きしめた。今の話し方、ママだ!シュアンは方向を変え抱きついた。
「ママ・・・ママなのね。会いたかった。声が聞きたかった。大好き・・・ママ・・・」
嬉しそうな顔をしてシュアンは眠りについた。これもジンジンの直感である。泣いてる理由は多分この事、だから私がお母さんになってあげたら泣きやむんじゃないかと思って。お母さんって杭州出身なのかしら。
シュアン、かわいそうに・・・毎日こうやって泣いていたのね。私・・・この人を助けてあげたい!
それから数日後、「私達、共同生活をしよう」と言い出したのはジンジンである。
あなたの悲しみを私が癒してあげるから。どんな事があっても、泣いてるあなたを必ず支えてあげるから。
それ以来、シュアンの涙にジンジンが気付かない夜は1度もなかった。ようやくシュアンが泣かずに眠れるようになったのは、楽坊が中国で人気になってきた頃からである。ジンジンの愛情のおかげなのだ。
「そうだったんだ・・・それだもの、そばに居てほしいのはジンジンじゃないとダメね」
シュアンはフッとわらった。二人の仲のいい理由を話したら懐かしくなって心が落ち着いた。同じくジンジンも「シュアンの心を落ち着かせるのは私しかいない」と言って微笑んでいた。聞いてたメンバーも笑む。
「ねぇ、ユエン。・・・・今のソンメイが・・・ジンジンなの?そんな気がして・・・」
その時バン!と勢いよくバオが部屋に入ってきた。ジンジンやソンメイや他のみんなが驚く。
「わかったよ!元に戻る方法!多分だけど、戻れるかもしれないって!」
みんながバオを囲む。なんでもバオのお姉さんの友達に『魔女』の研究をしている人がいて、その人の話によると『現代でも不思議な現象は、魔法やおまじないの力で起こす事ができる』というのだ。
「これは神様か天使様のイタズラだ。だからしょうがない、で済ますならこの先は話さないけど大丈夫?」
ジンジンとソンメイは顔を見合わせる。もう充分楽しんだ。私はやっぱり私の姿で生きて行きたい。
「いいみたいね。『満月の夜、窓にロウソクを二本立ててお祈りをする』だって。願う心が強ければどんな無茶な事も叶ってしまうというおまじない。ただこれは複数で行う方法で、1人でやっても効果ないの」
「つまり祈ってる全員の心が1つになった時、魔法かおまじないの力が発揮するのね。月に祈るの?」
「いや、自分の信じてるものに願うんだって。神様でも仏様でも教祖様でも、月でも星でも、両親でも先生でも憧れの人でも何でもいい
みたい。要は”見えない力を信じる事”が大事なんだってさ」
へぇ、とみんな妙に納得した。マンガのような話だが、今現実に不思議な力を持ってる人は世界中にたくさんいる。やってみなくちゃわからない時代なんだ。満月はあさって。その夜はみんなで集まる約束をした。
ガチャとドアを開けバオが入ってきた。同室のビンチュイは顔をみるなり泣きそうな顔をした。
「今ユエンとシュアンに説明してきたわ。来てくれると思うけど・・・ビンチュイ?やっぱ信じられない?」
「ごめんなさいバオ。私年齢を重ねるごとに現実主義になったみたい。祈るなんて・・・自信ない」
他のメンバーもそれぞれ不安だった。13人全員の心が1つになるなんて、それこそ奇跡同然だ。
「途中でお腹鳴ったらどうしよう。両親から電話きたりしないか心配だわ」
「私自分の神様はいるけど、他人を祈ったことないから・・・大丈夫なのかな」
「なんか本格的だからききそうじゃない?二人の体の事と、もう1つお願い事しても・・・いいのかな?」
満月の日、風のない暖かな夜だった。楽坊はホテルの1室に集まっていた。
「ジェンナンとシュアンとクンがいないけど・・・。誰かしらない?」
バオがロウソクをセットしながら聞く。電気を消したりベットを直したり、初めて見る姿でみんな感心した。
「ジェンナンは彼に呼び出されたから違う場所で祈るって。ほんとかなぁ」
ソンメイはピクッと反応した。・・・行ってあげたい、彼女の元へ。きっと寂しい思いをすることになるから。
「シュアンは部屋で横になってるわ。ユエン、シュアンは私達の言動で理解したんじゃなかったの?」
「あの子、ジンジンなの?って聞いた直後に『元に戻す儀式しよう』って言われたから、タイミング良すぎてまた疑ってるわ。みんなのお芝居じゃないかって。困ったわね。あ、クンは『関係ないから』って言ってたわ」
「そう。まいったな、祈る人数を書いた紙もう用意したのに。でも多分別の場所からでも大丈夫と思う」
はじめましょう、の言葉でみんな正座する。部屋は暗闇はよくないらしいので豆電球だけの明るさ。窓は開けてそこに少し長いロウソクが2本立ってある。空には雲があるが今の所満月にかぶっていない。
「ジンジンとソンンメイはベットで寝て。2つあるでしょ。眠って変わったのなら、戻るのも眠ってだと思うの」
「いいみんな。満月が隠れたりロウソクの火が消えたりしたら終わりよ。時間をかけないためにも心や頭に余計な事を思っちゃだめ。ただひたすら元に戻ってって祈るのよ」バオが説明し終わると静かになった。
ジンジンとソンメイは薬を飲んで横になる。薬はすぐには効かないからしばらくみんなと一緒に祈る。
これで自分の顔を見る生活は最後になりますように。目が覚めたら自分になってますように・・・
その頃ジェンナンは外にいた。祈りを忘れて泣きそうになっていた。彼は、運命の人なんかじゃない・・
「私達・・・もうだめみたいね。だから今日・・・はっきりさせましょう」
シュアンは部屋で1人、ベットに横になっていた。ここから月がよく見れて綺麗だった。
「約束の時間を過ぎたよ、ママ。私、ジンジンが私の所に戻ってきてとしか祈れないの。悪い子かな・・」
祈りの時間はたっていく。15分を過ぎた所でみんなに変化が現れた。
足がしびれた人、お腹が空いた人、ロウソクの火を気にして目を開ける人、儀式を信じていない人、これとついでに両親の健康を祈る人、もう諦めてる人とバラバラだった。これでは効果がない。失敗か?
「ちょっとみんな!もっとまじめにやりなさいよ!これでは時間の無駄よ!」
そう怒鳴り込んで来たのはなんとクンだった。みんなその意外性に驚く。
「こっそり開けて見てたけど、なによキョロキョロしたり足首回したり、これじゃ叶わないわ。いいの?」
「いや・・・もちろん戻って欲しいわよ。でも私とか・・・あんまり祈る習慣ないせいか、飽きちゃって」
「ジン・・。じゃあみんなはさ、どうしてジンジン達の体が戻って欲しいの?教えてよ」
クンの質問で祈りは一時中断。ジンジンとソンメイは上体を起こす。ロウソクの火はまだ大丈夫。
「そりゃあ顔と中身が違ったら、やっぱ違和感あるし話しずらいし。私達もたまに呼び方間違えちゃうしね」
「・・・みんなそんな考えだったの?自分達のことしか考えてないじゃない!ひどい!冷たいわ!」
「そこまで言わなくても・・・じゃあクンはどうして戻って欲しいのよ!」
「決まってるじゃない!ファンの人達のためによ!」
みんながハッとした。クンは立ったまま手振り付きで説教し始めた。
「私達が楽坊で活動できるのはファンのおかげ。インターネットみんな見てるから知ってるでしょ?ジンジンとソンメイの様子がおかしいって騒いでる事。私達は何でもないってウソ言ってるのよ。心苦しくない?」
みんな堅い表情になった。確かにジンジン達は入れ替わってもバレないようにと毎日演技を続けてる。
でもたまにボロがでて、いつもの自分になってしまう事があった。写真撮影があった時『キリッと美人』のジンジンと『ニコニコ笑顔』のソンメイだから、つい今の顔を忘れていつも通りに撮ってしまった事があった。
「あれからよね、演奏も相手のパートを弾くようになって”らしくない”ってファンが心配し始めたのは。私らに聞いてくる人もいるけど真相は言って無い。ウソ付いてるのよ!ファンのみんながかわいそうよ・・!」
そうだよね、私達を支えてくれてるのはファンだよね。その人達をみんなでだましてる。隠すためだけに。
「このせいでファンが1人また1人と離れていったらどうなると思う?私達は解散よ!」
サーッと血の気がひいた。それは嫌だ!そうか、そうよね、辛いのはジンジン達とファンのみんななのよね。
「ごめんなさいクン。他人事に思ってしまってたわ。私達一生懸命祈る!ジンジン、ソンメイ、ごめん」
「わかってくれたのね。さぁ、再開しましょう。ロウソクが半分になってきてるわ」
クンはジンジンにウインクした。フッと笑うジンジン。ありがとうクン、特に仲のいい友達枠ずっと外さないよ!
みんなが必死で祈っている中、ジンジンは密かに目を開けた。そして天井を見ながら思った。
『ジェンナンは祈ってくれてるでしょう。でもシュアン、あなたはきっとまだ・・・』
その頃ジェンナンは呆れた顔で腕を組んでいた。彼が黙ってしまったのである。
別れ話で無言になられるのが1番嫌だった。少しならいいが長い時間黙られると、別れる気はないが自分がひき止めるのは嫌なので、相手から話を取り消してくれるのを待ってるという、ただの時間稼ぎに思う。
「どうなのよ。私はもう別れたいの。あなたはどう思う?」
「・・・・・・・・・」
「いいの?いやなの?はっきりしてよ!」
「・・・・・・・・・」
ジェンナンはため息をついた。この人がこんなに男らしくないとは知らなかった。ますます嫌いになってきた。
出会いは偶然だった。始めは普通に思っていたけど、それ以降何度も『偶然』な事があった。行くとこ行くとこに必ず彼が現れた。話をすると特に自分のファンではないとわかってとドキッとした。追っかけではないのなら、本当に偶然なのだ。しかも出身地が同じで隣町に住んでいたとわかると話が盛り上がった。
こんな偶然めったにない。ひょっとしてこれは『運命』なのでは・・?と思って付き合う事にしたのである。
でも違った。日にちが経つごとにズレが見えてきた。『偶然』は偶然であって『運命』じゃなかったんだ。
ジェンナンは後ろを向いて柵にひじをついた。ここは人のいない橋の上、川に満月が映って綺麗だった。
なんだかソンメイに会いたくなった。私の今の顔を見てなんて言ってくれるかな?一緒に泣いてほしいわ。
ジェンナンは彼を無視して目をつぶって手を組み祈り始めた。彼は無言で後ろから見ていた。
『私の大事な人の体を元に戻してください。彼よりも大切で大好きな存在なんです。だからどうか・・・』
みんなと同じく、ひたすらそれだけを祈った。
ジェンナンと同時刻、シュアンは月を見ながら考えていた。
ジンジンとソンメイが入れ替わっているということは理解できた。ただ受け入れられなかった。
私はジンジンのすべてが好き。あの性格も顔も髪も体も腕も足も声も全部が好き!だから中身も外見もすべてがマー・ジンジンでなければ認めない。1つでも違えばそれはジンジンの人形でしかないの。
泣きわめいて抱きしめられた時、ママの口調じゃなかった。この人はジンジンの偽者だとわかった瞬間背中が凍った。だから突き飛ばしたのだ。あれがソンメイだったのなら悪い事をしたと思ってる。
でも好きにはなれない。ジンジンに体を返して。好きな人が変身したら好きじゃなくなるわ!嫌よ!
ーーーずっと前に、今と同じ設定のドラマをジンジンと2人で見てた時の事を思い出した。
「ねぇ、ジンジン。この彼女どうして逃げ出すんだろうね?好きな人の顔が変わっただけなのに」
「ほんとよね、かわいそう。シュアンならどうする?もし恋人や私の体が他人になったら」
「変わらず大事にするよ。中身は変わってないんだもん。ジンジンもそうでしょ?」
「もちろん。たとえ姿・形が変わっても、私はあなたを受け入れる」
ーーーあの時そう言ったのに・・・いざ現実になると怖くて拒否してしまった。ポロポロ涙があふれてきた。
なんて弱い人間なんだろう。姿が違ったってそれはジンジンなのに。たとえ他人になっても子供になっても、犬になっても鳥になってもサルになってもキリンになっても、中身がジンジンならそれはジンジンなんだ。
あの2人が入れ替わってからはおはようも言ってない。私はイヤイヤ言って泣いてばかりいた。
ごめんね、ジンジン。祈るわ私。もし戻らなくても私はあなたを受け入れます。そしてそのままの姿勢で手を組み目をつぶった。
『・・・シュアン。あなたを信じてるわ』 ジンジンも目をつぶり、心の中で祈った。
・・・21時26分37秒、ようやく13人全員の心の中が、他に邪魔なく全く同じ言葉と想いで一致した。
『どうか、ジンジンとソンメイの体が元に戻りますように』
ロウソクの火がフッと消えた。満月はまぶしいくらい明るかった。
10分後、ジンジンが目を覚ます。いつの間にか寝てしまっていたようだ。上体を起こして隣を見る。
・・・・ソンメイだった!自分の姿じゃない、どう見てもソンメイだ。自分の顔と髪を触って確信した。
「戻った・・・元に戻ったよ!みんなー!」
まだ祈っていたみんなが顔を上げた。ソンメイも目を覚まして起き上がり、自分の顔を触って笑った。
「戻ってる!自分に戻ってるわ!成功したのね!よかったぁ・・・・本当に良かった・・・」
ジンジンは目の潤んでいるソンメイを抱きしめた。これでもう偽らない、お互い自然でいられるね!
「おめでとう二人とも!すごいね!魔法ってほんとにあるんだね。お姉ちゃんに報告しなきゃ。フフフ」
ジンジンとソンメイは顔を見合わせると、じゃあと言って頷き合った。クンがお祝いしようと言い出したが、
「ごめん!私達行かなきゃならない所があるの。お祝いは明日にお願い。じゃあごめんねー」
二人で部屋を出て駆けて行く。もちろん、それぞれ1番最初に報告したい人の所へだ。
ガチャとドアを開けた。シュアンは振り向き体を起こす。また泣いていたのか、目とほほが濡れていた。
「あぁ、ジンジン。いや、ソンメイかな?儀式は終わったの?」
ジンジンは答えず、フッと笑って勢いよくベットに座りシュアンを抱きしめた。
「・・・シュアン。泣くのはおやめ。ママはここにいるわよ」
!!ママの口調・・・ジンジンだ!元に戻ったのね!・・・やっぱり大好き!この香りもぬくもりも全部・・
「じゃあ、さよなら」 ジェンナンが手を振り居残る。やっと彼が別れに承諾してくれた。これで終了。
ジェンナンから切り出した別れだ、これでスッキリした。なのになぜだろう・・・涙が出そうになってきた。
「ジェンナン」と呼ばれたので顔を上げた。ソンメイが後ろに手を隠して穏やかな表情で立っていた。
「あら、ソンメイ。じゃなかった・・・まだジンジン、なのかしら?どうだった?」
「・・・・ジェンナン。泣きたい時は、我慢しなくていいのよ。私がついててあげるから」
ハッとした。こんな言葉を言えるのは・・・ソンメイ!元に戻ったのね!わかると涙はこらえられなくなった。
ソンメイに抱きつく。フェ~ンという感じのかわいい泣き声をあげた。ソンメイは優しく頭をなでる。
ジンジンとソンメイは同じ事を思っていた。『私はやっぱり、私という人間でなくちゃだめみたい』
「でもいったいなぜ二人は入れ替わったのかしら?」
公演直前、楽坊は広い楽屋にいた。待ち時間、ソンメイはイスに座ってクンの悩みを聞いていた。その姿をジンジンは少し離れた所で立って見つめていた。ソンメイは視線に気付かずウンウン聞いている。
すごいなぁ、ソンメイは。あんな風に悩みを聞いてみんなを落ち着かせているのね。お姉さんみたいに頼られてるんだろうな、優しいしね。明るいし背高くてキレイだし。うらやましい、あんな人になりたかった・・・
「ジーンジーン!なにボーッとしてるの?よぉし、ティンが笑わせてあげる。コチョコチョコチョ・・・」
「キャー!アッハッハッハッ、やめてよくすぐったい!よくもやったなぁーティンちゃん覚悟!」
ヤダーと走り回る二人。その姿をソンメイは見つめていた。いいなぁ、ジンジンは。いつも楽しそうで。体がちっちゃいからみんなに後ろから抱きつかれやすいのね。バオやリーチュンがよく抱きついているもの。うらやましいな、私も背が小さい可愛い子になりたかったな。いつもじゃれ合って楽しそう!美人だし明るいし、1人でテケテケ行動してもかわいいとしか見られないから徳だし。あんな子になりたかったな・・・
そしてその夜、寝る直前、二人は偶然全く同じ希望を心で唱えて寝たのである。
『ハァー・・・ソンメイに(ジンジンに)なりたいな・・・』
「それよそれ、間違いないわ!素敵!なんの打ち合わせもしないで二人の願いが一致なんて・・・」
「それは全然いい事じゃないわよ。だって憧れではなく、変身願望なのよ」
ビンチュイが冷静に言う。その言葉にみんな急に黙り真顔になった。
「『あの人のような人になりたい』と思うのは、生きる目標になり努力の源になるから素敵よ。でも『あの人になりたい』では全然違う。自分はどうでもいいからあの人に変身できたら・・・今よりずっと幸せになるだろうと思うのよ。でもなれないから、そのストレスで変な所でキレたり病気になったり、人をねたみやすくなったりするの。現代の若者の精神病の1つよ」
さすがビンチュイ、親が医者だからその辺は詳しいらしい。説得力があった。これは良くない事だったの。
「そうなんだ・・。でもいつもそう思ってたわけじゃないのよ。あの日たまたまなんとなくそう思っただけよ」
「私もジンジンと同じ。そりゃあ、前から憧れてはいたけどね。あんなにはっきり思ったのは初めてよ」
「それならいいのよ。毎日強くでないなら二人は健全よ。あとは本当に、偶然のイタズラだったのね」
ビンチュイはニコッと笑った。脅かさないでよーと言いたかったがなぜか二人とも苦笑して言えなかった。
一週間後、シュアンは前にも増してジンジンにベッタリになっていた。毎日常に一緒に、周りは引き気味。
「ハー。あの甘えぶりはちょっとついていけないわね。シュアンって感情に波があるみたいね、知らなかった」
「うん、なんでもお母さんの事で泣きくれる時と全く気丈な時が不安定なんだって。ジンジンの話では」
「ふうん。でもよく理解してくれたよねー。『顔に関係なくいつもの自分でいる』って言ったもののメンバーの前だけで、世間には隠していた。収録の時は演技で、公演時とプライベートでは素だもん。ややこしい」
「でもまぁ、ファンのみんなも騒がなくなったから安心じゃないの。パフォーマンスだったと言ってるわ」
「そっかー・・・ところでクンは今日なんであんなテンション高いの?」
「明日いい事あるからよ」 ジンジンとソンメイが同時に言った。
この二人が背中を押したので、クンはようやく明日憧れの俳優さんとお食事する事になったのである。
「ふうん、まぁいいけどね。ジェンナンは大丈夫なの?なんか最近別れたって聞いたけど・・・」
「ありがとう、大丈夫よ。恋にうつつを抜かしてる場合じゃないわよね。もうしないわ、仕事だけにする」
「そんな事言わないで。たまに恋をするのもいいものよ。メンバーと古筝だけしか考えないじゃ寂しいわ」
みんなもかわいい表情で頷く。お姉さんでも女の子、恋をしても不思議じゃないし素敵な事だと思うよ。
「とりあえずー・・・ドタバタ騒動もなく無事解決したってことでいいよね?この入れ替わり事件は」
ええ、とそれぞれ同意する。楽坊は最初から最後まで大人だった・・。すると廊下をドタドタ走る音がする。
「ちょっと!みんな揃ってるね・・・・・・ごめんなさい!!」
「リーチュン、レイちゃん。2人共なしたの?」
「・・・今度は私達が入れ替わっちゃった」
「エェーー!!!」
みんながあぁ・・と頭を抑えた中、ジンジンは1人お腹を抱えて笑ってた。何だか心から可笑しかった。
バカねぇ、試したんでしょう。いけない事だって説明聞いたじゃない。ほんとに楽坊は好奇心旺盛ね。
でも、この二人もきっと気付く事になるでしょう。 『自分でなくてはダメな事』を。
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