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雷滢2:13人の「時にはこんな日々」by りょう


「この名言はウソね」

レイ・インはパタンと本を閉じた。隣のリーチュンがどうして?と聞く。

「たくさんある中の1つに、『女の友情はもろくて壊れやすい』ですって。そんな事ないのにね」

「ほんとよね。私達13人は全員姉妹のように仲いいもんね。だからそれはありえないね。うん。」

クスッと笑うとジンが入ってきた。そして「おはよう」と言ってこっちに近寄る。

「昨日の8時の番組見た?『恋人にしたい歌手・音楽家』の女性ランキングに、イエンが入ってたね!」

「エーすごい!本当?見て無かったわ。何位だったの?」

「8位だって。すごいよねーフェイ・ウォンとかが上位に入ってるランキングによ。びっくりしちゃった。イエンまだ来てない?あ、そうそうジンジンとクンも入ってたよ、20位以内に。えっと何位だったかな・・・」

ジンが考えているとイエンが入ってきた。ジンはおはようと言ってイエンの所に行ってしまった。

「すごいねーイエンは。美人だもんね。そうだレイちゃん、中国と日本じゃ美人の基準が違うんだって」

そしてリーチュンが覚えたての雑学を得意そうに話してきた。レイは聞きながらもチラっとイエンを見た。

レイは前から少しイエンに憧れていた。美人なとこ、二胡が上手いとこ、おしゃべりなとこ、よく恋をするとこ、激辛が好きなとこ、いろいろある。他のメンバーへの憧れもあるのだがイエンは特に好きだった。

「レイちゃん、聞いてる?」

「あっ、聞いてるわよーそれで?日本じゃ誰が人気なの?」

あのね、と言いかけた時ティンが入ってきた。手に雑誌を持っている。

「おはよう二人とも。ね、この人知ってる?かっこいいと思わない?」

雑誌を見るとスリムな美形の男が載っていた。彼はランディー・シュウという今人気絶頂の歌手だ。

「かっこいいよね!リーチュン、この人タッキーに似てない?だから一緒にファンにならない?と思ってさー」

似てるかも!と言うとティンと二人で盛り上がり始めた。レイは驚いた表情で無言だった。ジッと雑誌の写真を見て何かを思い出すと、左手で口を抑えた。

・・・・この人、私前に会ったことがある!

 その日の午後、音楽祭の収録があった。楽屋で出演者の名前の一覧を見るとびっくりした。

「シュウくんだ!ランディー・シュウって書いてるよ!リーチュン!」

「キャー!ほんとだわ!もう会えるなんてラッキーよね!サインもらっちゃおー!ね、レイちゃん」

「えっ・・えぇ・・」

「そうもいかないかもよ。ホラ、見てみなさい、あの入り待ちのファンの数」

ジェンナンがあきれた顔で窓の下を指差す。見るとシュウの追っかけ?のファンが大勢集まっていた。

「すごっ!あのルックスだものね、歌も素敵だし。しょうがないリーチュン・・・・私達も追っかけよう!」

「コラッ、諦めようでしょ。追っかけるほど暇じゃないのよ私達は。ましてや業界人同士だから変な噂たっちゃうことだってあるのよ。スキャンダルは命取り。世間や向こうのファンから嫌われたら大変よ。わかった?」

ハァーイと返事はしたが、まだ何か考えてそうな怪しい笑みを浮かべるティン。リーチュンもなぜかニヤける。

レイは二胡の調整をしながら思った。・・まさかあの時の彼がこんな人気者になるなんて・・・

 音楽祭開始。楽坊は2曲だけ弾いて、軽くトークすると終わった。袖にさがってしばらくすると、楽坊は廊下であのシュウにばったり出会った。ティンとリーチュンがキャー!と言うと彼は律儀にも挨拶してくれた。

「女子十二楽坊のみなさん、初めまして。僕はランディー・シュウといいます。よろしくお願いします」

なるほど、確かにかっこいい。日本のジャニーズに入れる顔をしている。楽坊も挨拶すると彼は急に

「レイ・インさん!お久しぶりです!覚えてますか?前に雨降りの中で約束を交わした僕です!」

といってレイの両手をつかんで振った。レイは困った顔で笑ってる。彼は思いっきり笑顔だった。

「エー!レイちゃん知り合いなのー?もう、なんで言ってくれないのさぁー抜け駆けなんてズルイなぁ」

ティンとリーチュンがいつもより甘ったるい声で言った。どうやらこれが作戦らしい。みんな半目になった。

「覚えているわ・・・こんなに立派になって・・・あ、あの悪いけど、後でゆっくりお話しましょうね」

「ごめんなさい、今日は僕忙しいんです。後日連絡します。ぜったい話しましょうね!じゃ」

爽やかに去って行った。「アーン、サイン欲しかったのにー」惜しがる二人の後ろでイエンが言った。

「彼なかなか可愛いじゃない。レイちゃん知り合いなのね?だったら・・・チャンスアリってことね」

イエンが腕を組んで微笑む。その言葉に反応したのはビンチュイ。顔を赤らめ片手で心臓を抑えていた。

楽屋に戻った楽坊。レイはリーチュンとティンに質問責めにあっていた。

「ねーねー!いつから知り合いなの?どこで出会ったの?教えてよ、レイちゃんってばぁ」

「もう、うるさいわね。たいした仲じゃないわよ」

「だったら、別に付き合ってるわけではないのね?」

イエンが立ったまま聞いてきた。顔は真剣だ。周りは無言で見ていた。

「もちろん、付き合ってなんていないわ。久しぶりに会ったんだもの」

「そう、安心した。なら、私が彼と付き合っても文句ないわよね?」

えっ!とティンが嫌な顔をした。レイは少し口を開けたが何も言えなかった。

「宣言するわ。私、彼を射止めてみせる」

絶対ダメー!とティンとリーチュンはかん高い声で叫んだが、イエンは余裕な表情を浮かべて微笑んだ。

「ねぇビンチュイ、なんだか・・・すごい事になりそうね。てゆーかすごい自信・・・」

「どうしようバオ・・・私負けそう・・・」

「はっ!てことはビンチュイも彼を気に入ったの!?」

「シー!声が大きいわよ」

といったがもう遅かった。みんながエーの口してビンチュイに注目する。

「ちょっとーライバル多すぎ!私が一番最初に好きになったのに!」

「ティンちゃん、恋は順番じゃないわよ。本気になった人の勝ちなのよ。私は負けないわ」

イエンはキリッとした目だが口は笑ってた。相当自信があるのか、それとも気が強いだけなのか・・・。恋はライバルがいると簡単には諦められなくなる。4人とも絶対ひきたくないという気持ちになった。

 レイは複雑だった。確かに彼とはたいした関係じゃない。でも、前に1度好きになったのは事実だ・・・

次の日。練習前の待機時間、5人はかたまってイエンのつかんだ情報を聞いていた。

「全く、何やってるのかしらねあの子達は。楽坊だという事を忘れてない?」

「まぁまぁ落ち着いてジェンナン。世間には見つからないようにやってるみたいだし大丈夫よ」

「ねっ、一体誰が彼をゲットすると思う?私ジャン・クンの予想はイエンね。でもティンちゃんも強いかも」

「私も同じ!・・・でもレイちゃん、本当にいいのかな?彼を取られちゃうのに。好きじゃないのかな?」

 4人の中で行動派なのはイエンだ。彼のHPを見たり彼のマネージャーに挨拶しに行って予定を聞いた。

「ごめんね、レイちゃんの名前使わせてもらったわ。会いたがってるって言ったら彼が了解して今後の予定を教えてくれたの。キャッチしたわ。3日後の昼の2時から5時まで仕事は入ってないみたいよ」

「すごいわね。感心しちゃう。確か私達の3日後の午後は練習よね?時間ずらしてもらえないかしら」

「頼み込んでみよう!でもさ、その3時間を誰が彼と会うの?」

とティンが聞いた時、レイの携帯が鳴った。出るとシュウだった。みんな急にレイに寄って聞き耳立てる。

「もしもし、レイさん?連絡ありがとう。伝えた通り3日後の午後空いてるんで、都合はどうですか?」

4人はレイの携帯に耳をピッタリくっつけて聞いていた。すごい話ずらくてレイには思いっきり迷惑だった。

「・・・・じゃあ、3日後にそのお店で。待ってます!」

プツリと切れるとみんなメモり、顔を見合わせ笑みを浮かべる。言いたい事は同じだった。

「誰がレイちゃんにくっついて彼に会いに行くのかしら?1人だけよね」

早い者勝ちよ、とイエン。ジャンケンにしよう、とティン。レイちゃんが決めて、とリーチュン。ケンカになった。

「もうー!誰でもいいから!さっさと練習始めるわよ!」

ジェンナンがキレたので言い争いは終了。当日決める事になった。

 その3日の間で4人はそれぞれ作戦を立てる。自分以外の人に当日用事ができればいいんだと思い、個々にメンバーに作戦の協力をお願いしてる。喜んで協力派と、私を巻き込まないで派に別れた。

 そして当日。なんと梁剣峰先生の都合により、練習は午後6時からになった。楽坊は運が強すぎる!

レイは待ち合わせのお店の近くにいた。まだ1時間前だ。落ち着かない。・・・約束、もう忘れたよ・・・

レイは4人のうちの誰が来るのか知らなかった。とりあえず2時まで待つことにした。

 その頃イエンは喫茶店にいた。2人の男を前にし、顔をひきつらせている。

「どっちにするかはっきり決めてくれ」

この2人、自分とイエンは付き合ってると勝手に思い込んでいたらしい。なのに自分以外にもう1人男がいたとわかって、お互い焦り、イエンに本命はどっちなのかと同時に聞いてきたのだ。

でもイエンにとっては迷惑だった。別に二股をかけていたわけではない。両方ただの友達としか思っていないのである。付き合ってると思った事なんて1度もない。ただ普通に食事に行く程度だったから。

「あのさー・・別に付き合ってたわけじゃないんだから、どちらかを選べと言われても・・・困るのよ」

「そうはいかないんだ。頼むよ、恨んだりしないから。僕とこの男のどっちが好きなんだ?」

どっちも好きじゃない。勘違いはこれだから困る。どうしよう・・・一体これは誰のワナかしら。もう悔しい!

このイエンの様子を、左斜め後ろの席でバオとビンチュイとジンが見ていた。あれを仕込んだのはジンだ。

「ティンとリーチュンに頼まれてイエンが行くのを阻止させたけど、ちょっとかわいそうだったかな・・・」

「ジンはイエンの交流関係知ってるもんね。宙ぶらりんにしていた男2人を呼ぶとは。あの2人考えたね」

バオがストローをカジカジ噛みながら言う。こう幼児っぽい事をするのは軽くイライラしてる証拠なのだ。

「これでイエンは行けないね。じゃあ今日彼に会えるのはティンちゃん?」

「いや、きっとイエンによって邪魔されてると思う。狙われてたから」

 ジンの予想通り、ティンは別の場所で、悔しそうな顔で両手をグーにしてバタバタ振っていた。

「もおー!悔しい!イエンちゃんのバカー!」

3分前の事。イエンが自分の作戦にハマリ2時に行けないと連絡来てルンルンだった。が、突然電話が。

「もしもし、ティン君か。何してるんだ?待ってるから早く来なさい」

「せっ、先生?こんにちは。来なさいってどこに・・・?」

「学校に決まってるじゃないか。私に教えてほしい曲があるんだろう?昨日君の仲間のイエン君から連絡あって、君が私に習いたがってると聞いたからなんとか時間をとったんだよ。待ってるから来なさい」

「・・・・ハイ・・・すいません・・・・・今行きます・・・・」

携帯を切ると「やられたー!」と叫んだ。女の恋の妨害はおそろしい。ワナを仕掛けるとハメられる・・・

 その頃リーチュンはジンジンと一緒にお昼ご飯を食べていた。するとジンジンの携帯が鳴る。

「もしもしー。あ、ティンちゃん。なになに?作戦は失敗した?そっかー残念ね。だからイエンがレイちゃんの所に行ったのね。ふむふむ、わかったわ・・・リーチュンに伝えとく。じゃあねー」

「エー!イエンちゃんが行っちゃったの!私が行こうと思ってたのに・・・もう!ジンジン、やけ食いよ!」

付き合うわ、と言ったジンジン。実は今の電話は彼女の1人芝居。バオに頼まれてリーチュンが行くのを阻止してあげたのである。リーチュンは人の言う事を信じやすい。演技好きのジンジンには簡単だった。

 誰からもノーマークだったのがビンチュイ。彼女が恋に奥手な事をみんな知っているからだ。今だって、誰にも邪魔されていないのに彼に会いに行かないと言っている。バオがイライラしてる原因はこれだ。

「どうして行かないのよ!せっかくのチャンスだっていうのに!もったいない」

「だって・・レイちゃんと彼が話に夢中になったら、私はお邪魔なだけだもん・・・それが怖くて・・・」

臆病なんだから!もっと強気で行こうよ。引っ張ってあげるから、代わりに頼んであげるから頑張って!

私は1番ビンチュイを応援して期待しているんだよ。悩んだ末、やっぱり行く勇気がビンチュイには無かった。

 結局、2時になっても誰も来ない。レイは仕方なしに1人で店に入った。薄暗い雰囲気のこの店は個室式になっていて、芸能人やスポーツ選手がよく利用することで有名だ。案内された席にシュウがいた。

「お久しぶりです!2人で話すなんて4年ぶりですよね?」

「そうね、5年の約束だったのに1年早く再会してしまったわね。・・・有名になれたのね、おめでとう」

「レイさんが十二楽坊の一員になってるのを見て思ったんです。自分も頑張らなきゃって。ありがとう」

それから二人の会話は弾んだ。お互い4年の間で変化があり、生活も環境も変わってしまったが、シュウの真面目さや考え方、しゃべり方も笑い声も笑顔も変わっていないことにレイは嬉しかった。

 しばらくしてシュウが、「あの日の約束、覚えていますか?」と聞くとレイは戸惑い黙ってしまった。

沈黙の中、二人はあの3日間を思い出していた。

短い時間なのに胸が高鳴った、なのに何も言えずに終わった、通り過ぎただけの恋・・・・

 4年前。十二楽坊のオーディションを一週間後に控えていたあの日。

レイが楽器店を出ると雨が降っていた。予想していたので傘は持っている。バッと開いたら視線の先に、1人の男性が手を頭に乗せ軽く空を見上げているのが見えた。服の濡れからして外に出たばかりと思う。

「はい、風邪ひきますよ。傘に入れてあげます」

男がこっちを向くとドキッとした。その人はかなり顔立ちのいい美青年なのである。

「ありがとうございます。バス停までお願いしていいですか?あ、僕はヤン・シュウっていいます」

意外にも礼儀正しいのですぐに好感持てた。レイはラッキーと思い、おしゃべりしながら歩き始めた。

「・・・ふうん。じゃあ私の方が少し年上ね。私、二胡奏者になりたくて今度オーディション受けるのよ」

「すごい!きっと受かりますよ。僕も歌手になりたくてダンスを習っているんですがなんか自信なくて・・」

「大丈夫よ!夢は叶うって信じて努力する事。私達一緒に頑張っていつかステージで会いましょう!」

・・なに言ってるんだろ私・・・やだわ、一緒にとか恋人でもないのに、恥ずかしい・・。でも彼はニッコリ。

「いつかそうなるといいですね。・・バス停つきましたよ。あの、よかったら明日また会いませんか?」

レイは何も考えずハイと答えた。顔を見つめあうとドキドキ胸が高鳴った。私、恋をしたみたい・・・

 次の日、練習をお休みしてデートした。天気は曇りでも心は快晴!何時間も語り合ったり、買い物したり、公園でレイが歌って彼がダンスを踊ったりと、楽しい1日を過ごした。時間が止まればいいのにな。

しかしその夜、レイは部屋でひざをかかえて座っていた。二胡をひく気にならない・・・・

 翌日、また雨だった。傘をさしてシュウと歩いていると昨日の公園についた。レイは足を止めて言う。

「シュウ君ごめん。勝手で悪いんだけど・・・私達、もう会うのやめましょう。今は二胡に集中したいの」

「・・レイさんも両立ができないんですね。僕もなんです。おとといからレッスン行く気にならなくて・・・」

二人は見つめあった。一緒にいたいと思うほど、他に何も手につかない。どうでもいいと思ってしまう。

『あなたが好きです』 二人は心の中で告白した。

「私達、出会うタイミングが悪かったのかもね・・・」

「今はまだ二人共夢に向かってる途中。他のことで頭をいっぱいにしてはいけないって事ですね」

レイは頷くと涙目になった。シュウも目が潤む。引き止められない立場にいるのがすごく悔しかった。

シュウ君ごめん。自分の人生を変えるかもしれないオーディションなの。今は何も考えちゃいけない。

「どうしてもダメなのですね・・・。情けないな、僕は。レイさん・・・5年待ってくれませんか?5年たったらきっとお互い夢が叶ってる。地位も環境も変わって僕大人になってます!また会ってくれませんか?」

「シュウ君・・・5年たってもまだどちらかが夢を叶えていなかったら?」

「その時は、諦めます。でも叶えていたら!僕は・・僕はあなたに正式に交際を申し込みます!」

このままでは嫌だから、そう言ってまっすぐレイを見た。私も同じ気持ちです。このままでは寂しいよね。

「わかったわ、約束よ。お互い夢を叶えて、ここでまた出会いましょう」

キュッと握手をした。若い二人の未来の約束だった。夢という壁を乗り越えたら、あなたに告白します。

そして二人は別れた。レイはオーディションに次々合格していき、十二楽坊の一員となった。何度もシュウに報告したいと思ったが我慢した。そしてデビュー。忙しい毎日を過ごしていった。中国・日本・アメリカと進出し飛躍するにつれ、だんだんとシュウの事を思い出さないようになっていったのである・・・

「レイさん?」

ハッと我に返る。シュウはニコニコして「思い出してくれたんですね」と言った。レイはうっすら微笑む。

「人生って予定通りにいきませんよね。まだ4年だけどお互い夢を叶えた。今恋人いませんよね?」

「いないわ。好きな人もいない。でも・・・まだわからないの」

「レイさん。僕の気持ちは変わっていません。だから」

「うちのメンバーの子達もあなたの事好きなのよ。これから仲良くしてあげてね」

「レイさん!」

「時間が欲しいの!4年の空白は・・・私には長かった。1度あなたを忘れたことがあるくらなの・・」

レイは真面目だから100%好きにならなきゃ付き合えない性格だ。シュウは小声でわかりましたと言った。

「ねぇレイ、昼間にシュウ君と会ったんでしょ。彼の携帯番号教えてよ」

夜の練習が始まる前にイエンが聞いてきた。急に呼び捨てするようになったから何か寂しく感じる。

「聞かれると思った。彼には名前も伝えておいたわ。私の友達と仲良くしてあげてって言ったよ。はいこれ」

「ありがとう!さっそくかけてみるわ。あなたってほんと彼に興味ないのね」

ドキッとした。興味ないんじゃない、でも競い合う気にもなれない。目をふせたのをリーチュンは見逃さなかった。私にも教えて!とティンも寄ってきたが、ビンチュイは来なかった。電話する勇気がないのだろう。

「レイちゃん・・・どうしたの?元気ないよ」

「ありがとリーチュン。私は大丈夫よ。実はあなたを優先的にして彼に言ったのよ。親友だものね!」

 それから4日後。レイはまだ返事をしていない、悩みすぎて元気がない日々だった。

この日は公演のため、全員楽屋にいた。するとイエンが大きな声でみんなに聞こえるように言った。

「私昨日、シュウ君とお話したの。彼昨日コンサートだったでしょう?終了後、楽屋にお邪魔しちゃった」

レイは焦った。いつの間に!という気持ちと、コンサートがあった事すら知らなかった自分の無関心さに。

「イエンちゃん行動早い!でも私はメールのやりとりしてるのよ。今日はまだ返事こないけどさ」

「フフ、ティンちゃん悪いけど私が一歩リードね。宣言通り、彼は私がもらうわ」

なんか本当にそうなりそうで怖い。イエンは有限実行タイプなのか。その時、スタッフが1人入ってきた。

「大変です!王さんが責任者の方とケンカして大騒ぎしてます!誰か止めてください!」

エー!と叫ぶとほとんどのメンバーが楽屋を出て行った。残ったのは偶然にもイエンとレイだった。

「あれだけ大人数が行けば大丈夫ね。丁度よかった。レイ、あなたはシュウ君の事どう思っているの?」

「イエン・・・私はいいよ。あなたの行動には適わないもん」

「私がどうとかじゃなくて。あなたはシュウ君の事好きなの?嫌いなの?はっきり言いなさいよ!」

レイは困った顔でうつむく。イエンは「私は彼に本気よ」とキリッとした顔で言った。

「私も・・・好きよ。でもイエン達みたいに本気じゃないの・・・まだ、そこまでいかないって言うか・・」

レイが目をふせたまま答える。イエンは横向いて髪をかきあげると、再びレイをまっすぐ見た。

「そう。でもそんなハンパな気持ちなら負ける気がしないわね。私はあなたに気を使わないわ」

そう言ってイエンは楽屋を出て行った。レイが立ちすくんでいると、後ろで、バン!という音がした。びっくりして後ろを振り返ると、なんとシュアンが出てきた。誰もいないと思っていたから二重に驚いた。

「なっ・・シュ、シュアン?なにやってるの!」

「イタタ・・。ア、アハハごめんレイちゃん。盗み聞きするつもりじゃなかったのよ。ほんとよ。イヤリングが転がって奥に入っちゃったのね。取ろうと思ってこの隙間を無理矢理入ったら出れなくなっちゃって。フー」

壁とロッカーの間ね・・よくまぁこんな狭い所に入ったもんだよ。久しぶりにシュアンの行動にあきれた。

「それよりさ、レイちゃんこのままでいいの?本当にとられちゃうよ」

「でも・・別に私の彼じゃないし・・・負けたくないって思うほど好きではないから」

「イエンは恋のハンターだよ!うかうかしてたら彼の気持ちを持っていかれちゃうよ。嫌でしょ?」

レイが黙るとメンバーが戻ってきたので話をやめた。シュアンは言い足りない気持ちで仕方なかった。

 公演が終わると今日の仕事は終わり。まだ夕方なのでレイはリーチュンと一緒に川原に行った。

「レイちゃん座ろっか。夕日がキレイだねー。こうして二人でゆっくり眺めるのって久々だから嬉しい」

リーチュンが笑顔でレイを見ると、レイはツーッと涙を流していた。

「ごめんねリーチュン。私、どうしたらいいかわかんないの。シュウ君の事好きだけど・・・それを伝えたらイエンがかわいそう。それが嫌なのよ。密かに憧れていたイエンに嫌われちゃうんじゃないかと思って」

リーチュンは「そっか・・」と言ってレイを抱き寄せた。レイは泣きながら心の内を話した。

「シュウ君の事本気になれない、イエンがいるから。でもとられたくない。もし私が本気で好きになればシュウ君は喜ぶけど、イエンは傷つく。私と仲が悪くなってしまうかもしれない。もうどうしたらいいの・・・」

レイの涙は止まらない。リーチュンは胸で泣いてるレイの頭を優しくなでた。話してくれてありがとう。

「そんなに悩んでいるなら・・・私は彼を諦めるよ。レイちゃんの事好きだから。ずっと応援していたいから」

 その頃、シュウと一緒にいたのは、なんとビンチュイだった。

「飲み物のおかわりどうです?ビンチュイさんと二人で話すのは初めてですね」

シュウがメニューを見せてくれた。ビンチュイは笑顔で選ぶが頭に入らない。ここは料理店の中だった。

 最初から二人でいたわけではない。初めはバオとティンとシュウのマネージャーもいて5人で食事していたのだ。シュウを夕食に誘ったのはバオ。もちろんビンチュイのために。しかしティンに見つかってしまった。

そして5人でご飯を食べていると、話題はシュウの音楽界の友達の話になった。

「・・あと3人ユニットの『BB』も仲いいです。そうだ、『VAN』のボーカルも友達ですよ。好きですか?」

「本当!?かっこいいですよねあの人。私ファンなんですよー今度会わせて下さい!」

「だったらティンちゃん、今紹介してもらったら?ね、シュウ君今その人に電話して聞いてみて!ほら!」

バオが急に指示し始めた。みんな目が点になったまま話が進んで行き、本当に今会える事になった。

「じゃあ私とティンちゃんで会いに行ってくるわ!マネージャーさんも知り合いなら来て下さいね。いい?」

「バオー!なんでこうなるのよ!私はここに残る。ビンチュイだけずるーい!なんでぇー・・・」

マネージャーは若い男性なのでピンときて了解してくれた。バオはかなり強引にティンを引っ張って行った。

「なんか・・・面白い人ですね、バオさんって。積極的だし、僕はけっこういいと思う」

「えっ・・・私も普段は積極的なんですよ。あの、シュウさんはどんな女性がタイプなんですか?」

「ウーン。明るくて頑張り屋でちょっと涙もろい人かな。レイさんのような・・・いや、何でもないです」

ビンチュイは名前を聞き取れていなかった。小声だったから。シュウはビンチュイを見つめた。照れるわ・・・

「聞きたいことがあります。イエンさんってどんな人ですか?・・あの方ってわかりやすい行動しますよね」

ビンチュイが顔をあげた。イエンの気持ちに気付いてるのね、だから気になってる。このままだと・・・嫌!

「・・イエンはレイちゃんと気が合わないんです。だから彼女の邪魔するためだけにあなたに近づいた・・の」

「えっ、そうなんですか?なんだ、僕の勘違いか。レイさん、かわいそうだな・・いつから仲悪いんです?」

ビンチュイが困った顔で上目遣いすると、「あー!ビンチュイ発見!」と言いながらジンとクンが来た。

「やっぱりこのお店だったのね。シュウ君こんにちはーこの子の仲間です。あれ?バオはいないの?」

といって二人が同じ席に座った。ビンチュイは冷や汗をかいた。どうしよう、ウソがバレちゃうよ。困ったわ!

 ティンがバンドのボーカルの人と外で話している時、バオはその場を離れてイエンを呼び出していた。

「何よ急に。バオ1人?」

「お願いがあるの。イエン、シュウ君を諦めて。ビンチュイに譲ってあげて!」

「は?何言ってるの嫌よ」イエンはフンとそっぽを向いた。バオはそれでも交渉を続ける。

「イエンは美人だし積極的だから彼氏はすぐ作れるよ。でもビンチュイは違うの。恋に関しては消極的で・・。だから今彼を好きになってビンチュイ、毎日明るくて綺麗になってくのよ。お願い、告白させてあげて」

バオはイエンが告白したらきっと彼はおちてしまうからやめて欲しいと頼んでいるのだ。イエンは困った顔して右手でおでこを抑えた。私だって本気なのに!でもここで断れば冷たいわがまま女になってしまうよね。でもレイに言われるなら納得できるが、成功する見込みがあるとは思えないビンチュイに譲るなんて・・

 そのビンチュイは今、ウソついた罰をうけていた。いや、本人がそう思ってるだけなのかもしれないが。

二人が座るとすぐに話題は一転し趣味の話になった。シュウが読書好きとわかるとそれにジンがのった。

「私も本好きなの。あれ読んだ?宋林の『世界紀行』。あの人の作品スケール大きくて好きなのよね」

「読んだ!僕も好きです。恋人探しの旅のでしょう?あと『空中都市』とかも好きですね。知ってる?」

面白いよね!と二人は盛り上がっていた。クンは携帯メールばかりしてるし、ビンチュイは孤独だった。大勢でいる中の孤独はひどく寂しい。これだったらウソがバレてみんなに謝ってる方がまだマシな気がした。

「『顔がいい人よりも、趣味が共通してる人といる方が楽しい』って本当ね。私、帰るわ。お代置いてく」

ビンチュイはお金を置くとガタンと立って行ってしまった。クンは心配だから・・とついて行った。二人になる。

「・・なんか僕、まずい事しました?ビンチュイさん怒ってましたよね」

「さぁ?」とジンも首をかしげていると、そこにジンジンとユエンが入ってきた。ジンを見つけるなり叫ぶ。

「あー!意外な展開!ジンと彼がツーショットなんて。密かに交際?ティンちゃんに報告しなきゃ!」

「ジンジン!違うったら!ったくすぐ騒ぎ立てるんだからめんどくさいなぁ。ちょっと待って!違うのよ!」

あわてて二人を追いかけジンも出て行ってしまった。シュウは目をパチパチ。十二楽坊はにぎやかだな。

 シュウが店を出て歩いていると、「あっ」と目が合ったのはレイだった。二人が出会うのはいつも偶然だ。

 「レイちゃん、私先に帰ってるね。じゃあシュウ君、レイちゃんをお願いします」

リーチュンが軽く頭を下げて先に行った。レイの涙を見てからはシュウに対する感情はもう消えている。

「リーチュンさん優しい人ですね。レイさん、返事は・・・まだですか?」

シュウが少し微笑んで聞いた。明るくしてるが、心の中ではフラれるんじゃないかと不安だった。

「シュウ君、次空いてる時間いつかしら?その時また会いましょう。返事、します」

二人は久しぶりに話しながら歩いた。いろいろ話を聞くとシュウの仕事は毎日忙しく、しばらく休みが無いと知った。それじゃあ恋なんてしてられないじゃない・・。そう思いながらも次は一週間後の夕方にした。

 次の日、ティンはジンジンから「ジンもシュウ君が好きみたい」と聞くと、急に気持ちが冷めていった。

「そうなの?ジンも・・。じゃあ私、やっぱりいいわやめる。それに私新しく友達になっちゃった人いるし!」

「片思いやめるの?」と聞いてもいいから、いいからとその話をしなくなった。あっけない冷め方だった。

人にはよく『絶対仲悪くなりたくない人』がいるもの。ティンにとってジンがそれにあたるのだろう。気まずい関係には絶対なりたくない。だからジンが好きなら私は諦められるよ。ずっとずっと仲良くしていたいから!

 レイは寂しそうに窓の外を眺めていた。バオは昨日イエンに言った事をレイにも言おうとしていた。

「イエンの返事はもらえなかったけど、きっと譲ってくれる。レイちゃんにもお願いしなきゃ。レイちゃ・・」

サッとリーチュンが立ちはだかった。「1人にしてあげて」そう言われると何も言えなくなった。仕方ない。

レイ、イエン、ビンチュイはそれぞれ思い思いの日々を過ごした。仕事しても練習しても考えるのは彼の事ばかり。一週間後の夕方、シュウに会えるチャンス。3人はこの日を、恋の決着日と決めていた。

 シュウは移動車の中にいた。横に座っているマネージャーが笑顔で携帯を切ってシュウに言う。

「喜べ!お前にドラマの出演依頼が来たぞ!その主題歌もお前の曲にするそうだ。やったな!もうすぐ新曲のレコーディングもあるし忙しくなる。もう気軽にデートしてられないぞ。楽坊さんにお別れを言っとけ」

「そんな・・・やっと返事がもらえるのに!・・もうダメ・・・」

 そして一週間後の午後。楽坊は練習だけなので、シュアンが口実をつけて早めに終わらせてもらった。

「リーチュン。私・・・考えたけど、やっぱり今日行かないわ。イエンに行ってもらって」

「レイ、いいのね?私が代わりに行くわよ。それがあなたの返事だって彼に言ってもいいのね?」

イエンの問いにレイは無言で頷いた。イエンは何か考えてから「そう」と言って行ってしまった。

「本当に、本当にそれでいいの?行っちゃうよ。レイちゃん!」

 シュウはあの公園にいた。ここは今じゃ特に何もなく老人しか来ないから、有名人の散歩コースだ。帽子をかぶってベンチに座っている。その様子を離れた草むらからバオとビンチュイがしゃがんで見ていた。

「今イエンから電話あってレイちゃん来ないって。イエンも来ないから最高のチャンスだよ!ビンチュイ!」

「エー・・・私じゃ無理よ・・こないだもあんまりしゃべれなかったし。怖いわ・・」

「頑張って!なんか謝りたい事もあるんでしょう?そのついでに告白しなよ!勇気だして頑張れ!ほら」

ドン!と押され倒れそうになった。草むらから体が出てしまったのでもう戻れない。・・トクン・・・トクン・・

「あ、あの・・シュウさん。こんにちは・・。あ、あの・・私・・あなたに・・お話したい事が・・・あって・・」

シュウは立ち上がって挨拶した。ドキドキ、緊張で顔が見れないよ・・。でも言わなきゃ!頑張れ私!

「あの・・こないだ言った事、あれウソなの。本当はイエンとレイちゃんって仲いいんです。ごめんなさい!」

「そ、そうなんですか。アハ、よかった。でも何で僕にそんなウソを?」

「イエンがライバルだったから。というのも、あの・・私・・・あなたの事が好きです!付き合って下さい」

バッと顔をあげた。真っ赤だけどがちゃんと顔見て言いたかったから。心臓はずっとドキドキドキ・・・

「・・ありがとう、思ってもみなかったからすごく嬉しいです。でも・・ごめんなさい!僕好きな人いるんです」

・・・そうですか。わかっていたつもりだけど、直に言われるとショックだった。それでも笑顔を返した。

「わかりました。突然ごめんなさいね。お仕事頑張ってください。じゃあ」

すぐに立ち去った。告白する前より返事を聞いた後のほうがスムーズに話せた。バオが迎えてくれた。

「お疲れ様。頑張った、ビンチュイはよく頑張ったよ!ねぇ?イエン。ヨシヨシ」

イエンいたんだ。頭をなでられると涙が出てきた。私、フラれたのね・・・。そしてバオの胸で号泣した。

「ヨシヨシ、帰ろうか。イエン、ありがとう。もう、我慢しなくていいよ。じゃあね」

ビンチュイを肩を抱きながらバオは歩き始めた。イエンは悩んだ。私は、どうしようかな。レイちゃん・・・

イエンは迷っていた。さっきのビンチュイを見て、自分が告白しても結果は同じだとわかったから。

ダメだとわかっててもずっと溜めていた想い、思い切ってぶつけて砕けるほうがいいんだろうか。それとも傷つくとわかっているなら言う必要ない、黙って諦めるほうがいいんだろうか。フラれるのはわかっている・・。

考えていると肩をポンと叩かれた。向くとジンとクンだった。「迷うなんてイエンらしくないよ」とジンは言う。

「そうよ。レイはもう少しかかるみたいだから、イエンが話してなよ。で、かっこよく告白してきなさいよ!」

クンにそう言われるとイエンの迷いはフッ切れた。髪をかきあげた後、普通の表情でシュウの所に行く。

「こんにちは。今少しだけ、私とお話しない?大丈夫、少しだから」

 その頃、練習所でレイはリーチュンに背を向けてうつむいていた。まだシュウの所に行こうとしない。

「レイちゃん、本当はシュウ君の事大好きなんでしょ?4年前に会った時からずっと好きだったんでしょ!」

「でもリーチュン。出会った頃は本気だった。でも4年の歳月の中でその想いは消えてしまった。1度本当に過去の恋として思い出にしてしまったの。その想いをまた呼び戻しても今のイエンほど本気じゃない」

「レイちゃんはそう思ってるかもしれないけど、じゃあ今泣いてるのはなぜ?悔しがってるんでしょう?」

レイは振り返ってリーチュンを見た。どうして泣いてるってわかったの?後ろを向いていたのに。どうして・・

「その涙がレイちゃんの心を物語ってるじゃない。彼を取られるのが嫌だって言ってるんじゃない。イエンちゃんは負けるのが嫌なんじゃない。はっきりしないレイちゃんに取られるのが嫌なのよ!だから、堂々と好きだって言えばイエンちゃんはきっと身を引いてくれるよ。遠慮は優しさじゃない、そうでしょ?レイちゃん!」

「・・・リーチュン・・・ありがとう。あなたがいなかったら、私はこの先ずっと後悔してたわ・・・行ってくる!」

「頑張れ!レイちゃん!」リーチュンが両手を握って応援してくれた。レイは頷き飛び出して行った。

「もしもし。レイちゃんが今やっとそちらに向かったわ」

「了解。後はこちらに任せて」

シュアンが電話を切る。もう外は夕焼けに染まっていた。練習所からこの公園はすぐ近く、もうすぐ来る。

「イエンさん。あの・・・あなたのお話って多分・・・」

「言わないで。なんにも言わないで最後まで聞いて。そう、気付いてるようだけど、私はあなたが好きよ」

シュウは黙っていた。イエンはフッと微笑んで告白を続けた。

「初めて会った時から気に入ってたから一目ぼれかしら。年下でも全然問題なかったわ。毎日電話してもちゃんと話してくれたからいけるかなって思ってたの。アーア、ライバルが居なかったらうまくいったのに」

「イエンさん・・・その・・思わせぶりなことしてすいませんでした・・・」

「あー何も言わないでって言ったでしょ!わかってるから、あなたが誰を好きかってことも知ってるわ。でもね、言わずにはいられなかったの。そういう女だから。フフ・・この私が男にフラれるとはね。初めてかも」

イエンは顔をふせた。緊張感なくサラッと言ってるがだんだん涙声になっていった。でも泣き顔は見せない。

「私はね、本気だったわ。あなたに近づくたびに嬉しくなっていた。誰にもとられたくなかった・・・。メンバーがライバルじゃなかったら、諦めることはしなかった・・・。本当に・・・本当に好きだった・・んだから・・・」

泣くのを我慢してるから喉が痛くなった。イエンは本気だった。きっと5人の中で一番熱が入ってただろう。

でもレイとシュウとの間にある『過去の時間』に勝てなかった。悔しい!もっと早くに出会いたかった・・・レイちゃんよりも先に出会っていたら、きっとシュウ君を振り向かすことができた・・・。こんな運命が憎かった。

「もっと早くに出会っていたら・・・相手がレイちゃんじゃなかったら・・・よかったのに・・そしたら・・私が・・」

右手で握りこぶしを作り、うつむいたまま震えていた。シュウは黙ったままイエンの左手を両手で包んだ。

その時レイが公園に来た。二人を見つけ近づこうとしたら急にシュアンとジンジンとユエンに引っ張られた。

「シッ!ごめんレイちゃん、まだイエンに時間をあげて。今行ったらあまりにかわいそうだから」

レイはイエンを見た。うつむいたままシュウと手を握ってる、きっと泣いているんだろう。ごめんね、イエン。

「あなたには・・いや、イエンさんには僕よりずっといい男が似合いますよ。だから・・泣かないでください」

涙を拭いて顔をあげた。頑張って微笑む彼女は、夕日に包まれた大人っぽくてとても美しい人だった。

「大丈夫よ。私は強いから。失恋くらいで落ち込まないわ。それに私、けっこうモテるのよ。フフフ」

シュウが安心した表情になった。その顔を見てまた泣きたくなったが我慢した。どうか、幸せになってね・・

「なんか、落ち着いたみたいね。はいレイちゃん、いってらっしゃい!私達帰るからね」

ドン!と押され「キャッ」と言ったら二人に気付かれてしまった。イエンはパッと手を離し大きくため息をつく。

「やっとヒロインの登場ね。助演は帰ります。じゃ、バイバイシュウ君。レイちゃん、タッチ!」

レイの肩をポンと叩くとイエンは髪をなびかせて立ち去った。最初から最後までかっこつける人だ。

「イエン、お疲れ様。素敵だったよ」

ジンが迎える。クン、ユエン、シュアン、ジンジンも一緒だった。みんなでイエンを囲んで歩く。

「かっこよかったよー。楽坊で一番いい女の勲章をあげてもいいくらいだよね」

「フッ、何言ってるのよ。私は前から楽坊で一番美人よ。だってランキング入ってたんですもの」

イエンは口元は笑ってるがずっと目線は下だった。歩きながらユエンがイエンの肩を抱く。顔が歪んできた。

「イエン。私達はイエンが大好きよ。かっこいいし、純情だし、大人だもの。あなたを尊敬してるわ」

「そうだよ。ねっ、イエン。辛いもの食べに行こうよ!それで汗も涙もいっぱい出しちゃお!行こう!」

シュアンの提案にみんな賛成と口々に言う。イエンは泣きながら頷いた。ユエンはずっと肩を抱いていた。

 「レイさん。僕、今いろいろあって驚いたけど、これではっきりしました。やっぱりレイさんが好きです」

「シュウ君。・・・4年前に言えなかった事と今の気持ちが同じなの。私も、あなたが好きです」

二人は見つめ合った。やっと言えたのだ・・・4年かかった告白。約束を守り、想いが通じ合う。

「でもね、私達今お付き合いをするのはやめましょう」

「えっ、どうしてですか?」

「仕事、忙しいんでしょう?あなたは今人気絶頂のスターよ。忙しいって事よくわかってるわ。もし今交際をしたとしても、仕事という壁にぶつかってきっと続けるのが困難になる。だから、まだおあずけよ」

シュウは返す言葉が無かった。すごいな、女の人って。よく考えてる。言わなくてもわかってたんですね。

「・・・じゃあ、また4年後ですか?長いなぁ。8年もかかる恋なんて、耐えられないかも。前は夢の壁にぶつかって、今は仕事の壁にぶつかる。なら今度会ったときは、何の壁にぶつかるんでしょうね・・」

「ないわ」レイが真剣な表情で言う。シュウはえっ?と聞き返した。

「夢と仕事の壁を乗り越えたら、もう私達に障害なんて何もないわ。思いっきり自由になりましょう!」

ニコッと笑った。その顔の可愛さでシュウは落ち込むのをやめた。これは別れじゃない。待ってるだけだ。

「じゃあ僕達の付き合いは4年後スタートですね。約束ですよ。4年たったらきっと仕事は落ち着いてる」

「フフ、昔言ったことと同じね。わかったわ、約束よ!ほら、また握手しましょ」

「ん・・・いや、今度は約束のキスがいいな」

それはダメよ!と焦った途端、シュウはひざまつき右足だけひざを立てレイの右手の甲にキスをした。まるで西洋の儀式みたいだ。レイは顔が赤くなった。てっきり口だと思った・・緊張した自分が恥ずかしい。

「ハハ、驚きました?僕今度ドラマに出るんです。ハリウッドに憧れる俳優志望の男の役です。だから」

「もっ、もう!バカ!恥ずかしいわ・・・んーもうー!叩いてやる!」

「うわっ、ごめんなさい!ちょっとした練習ですよー。それに口だって言ってないじゃないですかー!うわっ」

よけるシュウを追いかけるレイ。夕日の中、二人は今だけ恋人同士になった。あと4年、また片思い・・・

 「ふぅん。4年後ね。なんだじゃあ私ともしOKだったとしても、彼の仕事優先で結局ダメになってたかも」

「イエン・・いろいろごめんね。私、あなたがライバルで良かったと思ってるわ。こんなに優しくて・・・」

「ちょっと泣かないでよ。別に何もしてないわ。大体ライバルは私だけじゃないでしょ。ティンちゃんもリーチュンもビンチュイもそうでしょ。でも不思議よねーライバルなのに憎らしい気持ちには1度もならなかった」

「私達もよ。悔しくても決して憎悪しなかった。やっぱり仲間であり友達だからかな。みんなが好きだから」

「ねぇレイちゃん、あの名言はやっぱり外れだね。ほら、『女の友情はもろくて壊れやすい』って・・・」

「そうねリーチュン。友情は簡単には壊れないわ。たとえ恋が絡んでも、本当の友達なら大丈夫!」

 その後、シュウとはたまにテレビ局で顔を合わす事はあったが二、三言話す程度だった。お互いフリーに戻ったのだから仕方ない。それでもレイは寂しくなかった。イエンは恋のハンターの名を復活させ、また誰かに目をつけた。ビンチュイはしばらく恋はしないと笛の練習に専念し、リーチュンはまたアイドル好きに戻る。

「みんなぁ!彼氏候補にしてたボーカルの人に彼女が出来ちゃったー!ショックー・・・慰めて!」

「ティンちゃん元気だして。じゃあ今日またみんなで辛いもの食べに行こう!最高激辛料理あるよ!」

ヤッター!の声とヤダー!の声で楽屋は騒がしくなった。イエンはレイの腕を組み行こうね、と笑顔で言う。

 私のイエンへの憧れの気持ちは、この先もずっとずっと変わらない・・・。

  • 2005/05/23~06/10
  • written by りょう


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